母と喧嘩をした
喧嘩というにはあまりに些細で小さいことだった
けれど、私が物心ついてからはじめて母に逆らった瞬間だった
生まれて初めて、学校に持って行く弁当のおかずを残した
残したのは切干大根だった
私はあの独特の風味と後味がどうしても好きになれなかった
家で出されれば、私が食べ終わるまで母が見ていたから頑張って食べた
食べなければ、母はいつもとても悲しい顔をした
そして、部屋を出ていった
2時間ほどして戻ってきた母はとても楽しそうな笑顔を浮かべていたけれど、
椅子に座ったままの私を見るとすぐにそれらを見えない水で洗い流してしまって、迷いの一切ない、清々しいような無表情で私を見下ろした
そして、彼女はいつでも正義の使者として私を叱責した
「ねえ、あなたはさ」
彼女の話はいつでもその言葉から始まった
そうして彼女は私の非をところせましとならべ、見せつけた
そのあと自分の苦労を語った
1時間ほどすればそれが終るのがわかっていたから、私は黙ってきいた
「あなたも同じことをしてみればわかるわ」
彼女の話はそれで終わった
そうしている彼女はどこか楽しそうに見えた
だから、私はいつでもそれでいいのだと思った
今回も、私がおかずを残したのだと知った彼女は悲しい顔をした
そうして、いつものように部屋を出て行った
2時間ほどすればここに戻ってくるだろう
そう思った
けれど、私はそこからの一連の流れに疲れてしまっていた
もう疲れた
楽になりたい
けれど死ぬのは怖い
どうしようもなく怖い
でも歯向かう力もない
潰されるのは怖い
私はいま16だ
今かわれなければきっと、臆病ものの私はこのまま、
挟まれながらつぶれながら生きていくことしか選べないのだ
それが自分の選択じゃないと気づいていても、選ばされたとわかっていても、
それでもそれを自分が選び取ったと思い込まなければ
自分がいかに無力かわかってしまうから
受け入れて妥協して折れて曲がって生きていくことしかきっとできない。
そんな自分に嫌気がさした
あと2時間で母は帰ってくるだろう
けれど、私にはわからない
一体私はどうすればいいのですか
いつも通りに黙ってやり過ごしていればいいのか、それとも、
教えてください
助けてください