あの人は何の気なしに釣り竿を振っている。
たまたまかかった魚は打ち揚げられて、地面の上でビチビチ跳ねている。
針にはかえしが付いていて、刺さると中々抜けない。息も苦しい。
魚は突然の暴力にただ呆然としていたが、少しだけ持ち直して抗議をする。
「悪気はなかった」
「そもそも水にいるのがいけないでしょ」
「気にすることじゃない」
「すぐ怒るんだから」
「そんなことで傷つくあなたがおかしい」
魚の痛みはいつでも無かったことにされる。
ならばとひとり息を潜めて、やり過ごそうと背を向けた。
「拗ねちゃったよ笑」
寄せては返す波みたいに思い出して、その度に自分が無価値になるような気がする。
放った当人はとっくに忘れてるのにね。