あたしはことり。
ちっぽけで、まだお歌も上手く歌えない。
生まれた時から籠の中。
生まれてこのかた、
この部屋のお外に出たことがない。
今日は生まれて初めてニンゲン以外の生き物を見た。
この籠が置いてある机の上に乗ってきた大きな毛玉は、『お前なんでそんな所にいるんだ?』と聞いてきた。
彼は自分を猫だと名乗った。
『お前は飛べないのか?』
『トブって何?あたしはずっとここにいるよ?』
『その翼をはためかせて大空を飛ぶのがお前ら鳥の正しい生き方なんじゃないのか?』
『ソラってなあに?』
猫は不思議そうにこちらを見てきた。
『空ってのは、ここよりもっともっと高いところにある広い広い世界のことだ。』
『このお部屋よりも?』
『そうだ。俺の知ってる中で一番広いんじゃないかって思ってんだ。俺の憧れの世界だ。』
そう語る猫は目を輝かせて本当に楽しそうだった。
それから彼は毎日あたしの部屋へ話にやって来た。
彼は実はこの家の飼い猫なんだってこと。
本当はこの部屋に入るなって言われてること。
一度だけ家を脱走したことがあるということ。
また外に行ってみたくて、作戦を練ってること。
空を飛ぶ鳥に憧れてること。
飛ぶためにジャンプの特訓をしていること。
他にも沢山話した。
あたしも、彼と話すうちに、この部屋の外の世界、空の世界にわくわくした。
見てみたいって思った。行きたいって思った。
いつか一緒にお外行こう、一緒に空を飛ぼう。
彼と約束した。
あたしは少しだけ飛べるようになった。
飼い主さんが部屋の中で遊ばれてくれるから、その時間を使っていっぱいいっぱい練習した。
でもあたしは飛ぶのが下手らしい。
あたしの翼の羽は飛ぶには短いすぎるみたいだ。
飛んでもすぐ着地していまう。
かわりに歌が上手くなった。
飼い主さんの歌声に合わせて歌うたび、飼い主さんは喜んでくれたから。
それが嬉しくて何度も歌ううちに上達していった。
飼い主さんのお喋りの真似っこもできるようになって、いっぱい褒めてくれた。
猫がある日不服そうに言った。
『お前はずっとここに閉じ込められたいのか?
それで幸せなのか?もう空は飛びたくないのか?』
『お前がいつまで経っても飛べないのはニンゲンに羽を切られているからなんだぜ?それでも恨まないのか?』
あたしは分からなくなった。
確かに外は、空は確かにキラキラした憧れの場所。
けれど、この部屋を勝手に離れるのは、飼い主さんから離れるのは、あまり輝かしく思えなかった。
この部屋に閉じ込めているのも。
籠の中に入れられるのも。
羽を切られるのも。
全部全部飼い主さんが、あたしを自分のそばに置きたくてしていること。そんなの身勝手なことだろ、と猫は言った。
それでもわたしが生まれたばかりで何も分からないうちにここへ来て、ずっとそばにいたのは飼い主さんだった。
わたしの大好きなものはなんでも分かってくれた。シャキシャキのりんご。
ゆらゆら揺れるブランコ。
カラカラなるおもちゃ。
優しくて気持ちいいマッサージ。
遊んで欲しいとき、たくさんかまってくれた。
おもちゃを投げ合いっこしたり、おしゃべりしたり、りんご一緒に食べたり、お歌も歌ってダンスもした。
あたしが喜べば、飼い主さんまで嬉しそうだった。
飼い主さんが笑顔になれば、あたしの心も暖かくなった。
そんな飼い主さんにさよならするのは辛かった。
猫はため息をついた。
『分かったよ。お前の好きにすればいい。』
それから彼はあたしの前に現れなくなった。
あたしもとうとう空へ旅立つ時が来たみたい。
最期に彼は会いにきてくれた。
『これで、、お前は良かったのか?』
見上げれば飼い主さんが、りんごみたいに顔を赤くして、涙をぼろぼろ流していた。
だんだん動けなくなって、もう歌うことも飛ぶこともできなくなっていったあたしのそばに、彼女はずっとずっと離れずに居てくれた。そんなあなたと一緒にいられて…生きることができて…
『うん。あたしはずっと幸せだよ。』
……そうか、ありがとう友よ。
飼い主のことは俺に任せておけ。
彼の顔は、空への憧れを語っていたあの頃のように、とても輝かしかった。
⦅お久しぶりです。どうも潮山リリィです。
友人のインコが先日亡くなったそうで、その話を聞いているうちに込み上げてきた思いを文字に載せてみました。彼女はインコのことをすごく可愛がっていて、その子が生きている間も度々お話を聞いていたので、突然病気で亡くなってしまって本当にショックだったのだろうと思います。
ここで書いたことはほとんど彼女のインコとは関係ない話になってしまいましたが、インコの野生化が問題になっているという話も耳にするので、そのことについても触れられればなと思いました。
インコなどの飼育用の鳥を外に放つことは絶対許されないことです。ネットなどで『飼育ケースに閉じ込めて飼うことは人間のエゴだし、可哀想だから自由にしてやれ』などと発言している方を見かけますが、それは間違いです。インコは外では生きられませんし、生態系にも悪影響を及ぼす危険があるのです。
ペットと人間の向き合い方について今一度よく考えてください。
彼女のように家族の一員としてインコを受け止め、最期まで愛情を注いでくれる、そんな人が最高の飼い主なのではないかと、ペットを飼う人がみんなそんな人であってほしいと心から願っています。⦆
187233通目の宛名のないメール
お返事が届いています
ななしさん
泣いた( ; ; )
友人さん、インコちゃんの分まで生きて、天国で再会できたらいいですね。
クロ 名前募集中
親の友達が最近インコの引き取り手を探しているようです。
その時にこの小瓶を見つけました…生き物を飼うということは命を預かるということだし、気軽に決断してはいけませんが、少なくとも飼い主に愛され愛情をそそがれたこのインコはとても幸せだっただろうと思いました。
リリィさんの物語はなんだかグッとくるものがありました(?)
猫ちゃんとインコを飼っているお家…きっと広いんだろうなぁ…(うちとは大違いだ)
ななしさん
限られた生育環境に合わせて作られた(改変された)生命は、稀に放たれた環境に適応して繁殖できる種は別として、人間の飼育を離れたところで生き延びることは難しい。
人間が何世代にもわたって、勝手な操作を行って誕生した生命を、”かわいそう”だから”野に放つ”という選択はありえないね。(野生のものを捕獲してきて、違法に飼育している場合は別だけど)
”かわいそう”は人間のエゴで、そう思うのなら、そうしたかわいそうな生命を生み出さないようにする方が先じゃないかと思う。
元からある自然を破壊しまくってる人間が、生物の繁殖や侵略に対して偉そうなことは言えないけど、少なくとも自分達の勝手で作り出した生命に関しては、最期まで人間の元で幸せに暮らせるようにすべきだと思う。
小瓶主さんの言うことは正しい。
ななしさん
こんにちは。
わたしは来世は大切に飼ってくれる人のところでペットになりたいけどね。(それか動物園のパンダ)
楽しく毎日遊んでるだけで、構ってもらって、好きなご飯くれて。撫でてもらえる。
具合悪くなったら、病院に連れてってくれて、心配してくれて。
なにより、誰かとずっといっしょにいられる。
強がって無理しなくても命の心配をしなくていい。一人ぼっちはさみしいから。
自由にしてやれ、かわいそう、そういう人もいるよね。かなしくなる。
ペットになってみたことあるのかね。わりと人間より優雅な生活してる子達もいるけど。
ほんとに嫌だって思ってるかなんて、わかんないじゃんね。かわいそうなんて、それこそ、自己中じゃんね。
言いたいこと外野から言うだけ言ってさ。
現実的な問題のところも考えてから言ってほしいよね。
素敵な小話ありがとう。
とりす
とても素敵なお話でした。
本当にそうですよね。最後まで責任を持って大切に一緒に暮らしたいと思います。
ななしさん
インコや犬猫の本当の気持ちはわからないけど、一緒に過ごした時間に感謝ですよね。人間もそうです。いくら言葉でコミュニケーションを取っても、本当の相手の気持ちはわからない。でも、一緒にいてくれてありがとう。目には見えないけどインコとの絆が力となって、飼い主は楽しく生きさせてもらうことができたのでしょうね。
以下はまだお返事がない小瓶です。
お返事をしていただけると小瓶主さんはとてもうれしいと思います。