人事案件に数多くかかわってきた。
面談で、ぼそっと一言、
「いや~、世間てほんと、天才だらけですよね」
と言った人がいる。
例えば、どんな天才?ときくと、
「上に媚びて気に入ってもらう天才」
と答えて、がっくり肩を落とし、深いため息をついた。
口数が少ない社員さんで、あまり詳しい話はなかったものの。
その後の彼の変化を見れば、何を悟ったのかは自明。
「上に媚びて気に入ってもらう」のも、一つの才能。
「人たらし」とも言われる。
自分にはその才能がなく、同じやり方でいいポジションをゲットすることができない。
ならば、どうするか。
他人の才能を妬んで、「ずるい」などと批判するのは最悪手。
無駄なだけではなく、同僚の悪口を言う人物というレッテルを貼られて、ますます自分の立場を悪くする。
できることは3つある。
1. 自分にない才能を持つ同僚さんの言動をよく観察して、自分も「上に媚びて気に入ってもらう」スキルを身に着ける。
才能は無理でも、スキルなら身につけられる可能性大。
「上に媚びて気に入ってもらう」にはどうすればいいか、同僚さんがただでお手本を見せてくれるのだから、これを利用しない手はない。
そのうち、ただでお手本を見せてくれる同僚さんの気前の良さに、感謝の念さえ湧いてくる。
2. 「上に媚びて気に入ってもらう」以外の自分の才能、強みを棚卸して、自分の立場をよくするのに一番役立ちそうなものを優先的に強化、磨き上げる。
3. 自分の強みが評価される職場、自分の花を咲かせるのに適した土に自分を植え替える。
くだんの社員さん、黙々とこれを実践。
5年がかり、2度の転職を経て理想の職場に身を置けるようになった。
多くを語らない方ではありましたが、着々と自己本位を実践するうちに静かな自信が垣間見えるようになり、見ていて小気味がよかった。
自分が自己本位を実践できないうちは、他人の自己本位が許せない。
そして、「許せない」という感情に絡めとられ、許せない相手のことばかり考えるようになる。
不毛な片思い。
その許せない相手は、あなたのことなど1秒も考えていないのにね。
上に媚びて自分の立場をよくするのに忙しいから。
その許せない相手は、なりたい自分になるため、自分がいたい場所に行くために、自分の時間、労力、才能をフルに使っている。
自分という貴重なリソースを正しく活用しているのは、その許せない相手の方。
今の自分が嫌いな人が、自分と向き合って自己本位の道を歩むのは、最初は苦行だろうね。
そりゃ、嫌いな相手に粘着して批判する方が、脳内の快感物質も沢山出るでしょうよ。
そこで、敢えて快感物質の誘惑に背を向けて、自己本位を選べるかどうかは、意志の問題。
この意志がない、もしくは弱い人が本当に多い。
そして、何十年もの貴重な時間をドブに捨てる。
幸いにして、くだんの社員さんには、この意志があった。
(いいぞ、もっとやれ)
と内心でずっとエールを送り続けた5年間。
いいもの見せてくれてありがとう。
あなたはもう大丈夫。
あなたは萎れない。根腐れも起こさない。
無限大に開花していけるよ。