俺は、ほんの5ヶ月前、手術をしたんだ。
急に頭が痛くなって、自室の床でのたうち回っていたところを、母に発見された。
救急車で運ばれ、7時間に及ぶ大手術が行われた。
脳腫瘍が出来ていたんだ。
それも、記憶を司っている海馬のすぐそばに。
今まで何ともなく生きれていたのが不思議なくらいに。
目覚めた俺は、俺じゃ無かったんだ。
目の前にいる母という女性が、父という男性が、そばで泣いている親友という男の子が。
分からなかったんだ。
自分が誰で、相手が誰で、何故ここに居るのか。
分からなくなっていたんだ。
忘れてしまったんだ。
絶望に突き落とされた。
そんな感覚だった。
これから俺は、どうやって生きていくんだって。
知らない人たちの中で、知らない環境で、知らない自分で、なんのために。
『以前の君は』
『前のお前は』
そういう言葉ばっかだ。
もう聞き飽きたんだよ。
前の俺じゃないんだ。
俺ってなんなんだ。
前の俺前の俺って
じゃあ今の俺はなんなんだよ…?
自分の事を忘れてしまった相手を、
以前みたいに思えるのか?
俺は俺じゃないのに、
まだ親友だって笑ってるのか?
分かんないんだよ
忘れたくなかったよ
俺はもう前の俺じゃないのに
信じて笑わないでよ