阪神淡路大震災の時、ある街角に、一人の男性が座っていた。私がその人を見たのは確か、地震が起こった次の日

この話は実話です。
どこかの小瓶の返事で言われていた、『一杯のかけそば』的話でも、都市伝説でもなく、私が目の前で見たことです。
ただ、このことについてポジティブにとらえているため、そういう書き方をしております。
そして、ここに出てくる人、団体に関わっておりません。
この話について、それぞれで議論していただくのは結構ですが、それぞれの責任でお願い致します。
その上で、お読みください。


17年前、阪神淡路大震災の時、ある街角に、一人の男性が座っていた。

私がその人を見たのは確か、地震が起こった次の日だった。
その人は、震災前から閉店して、空き家だった店と、電気がついてないファーストフード店の間に、小さな机を出し、小さな椅子に座っていた。
机の前に、
『困ったことがありましたら、何でもお申し出ください』
と書かれた紙が貼ってあった。

その人の顔は知っていた。
市会議員の方だった。

その人は電気が消えた商店街で、冬の風が吹きすさむ中、じっと前を見て座っていた。

次に見た時、机は大きなものになり、机の上には、カセットこんろやボンベ、ラップ、大きなビニールシート、紙皿、カップラーメン、電子レンジで温めるご飯等々、その時点で必要なものが所狭しと並べられていて、その人の足元には所狭しと水が入ったタンクが並んでいて、机の前には、
『ご自由にお持ちください』
と書かれた紙が貼ってあった。
その人は、やっぱり座っていて、じっと前を見ていた。

その人の後ろにあるファーストフード店は解放されていて、そのファーストフード店が提供したと思われるスープとお茶が自由に飲めて、温かいものに飢えていた皆はそこを利用して、暖を取った。


それから、何度も何度もそこを通った。
その人はいつもそこにいた。
誰かに市の対応について、怒られ、それを黙って聞いていることもあった。
その時、その時に必要なものがいつも机の上にあった。
そのうち、仮設住宅の入居が始まり、
『仮設住宅の入居についての相談、受け付けます』
と言う紙が机の前に貼られ、それについての話も聞いていた。

それは、ライフラインが復旧し、商店街が再開し、閉店していた店が新しく開店するまで続いた。


そんな議員は他にいなかった。

その人だけがその街で座っていた。
他に、商店街以外の場所でも、座っている人はいなかった。

寒い中も。
自分のせいじゃないことにじっと耳を傾け。
その時に必要なものを、自費なのか、党からのお金なのか、用意して並べて、そこにいた。

次の選挙のため、とか、党のため、とか、そういうの、かもしれない。
でも、それだけで、たった一人、あの寒い中、じっとあの場所に座れるのだろうか？
自分のせいじゃないことにじっと耳を傾けられるだろうか？


その頃、私には選挙権があったので、次の市会議員選挙の時にはその人に投票した。
党とか、そのへんの偉い人だから、とか言う選択じゃなく、あの時、そこに座り続けたその人に感謝したくて投票した。

その人は、その頃の政権政党の候補者に続き、２位当選した。
いつも、確か、ギリギリで当選していたのに…
皆、お礼が言いたかったんだ、と思った。


時が流れて、その次の選挙で、その人は落選した。
万年野党だったから、色々攻撃されたらしい。
私は、あの時のことを忘れたくなかったから、党の噂がどうとか、与党からの攻撃に耳を塞ぎ、その人に投票した。

皆、忘れてしまったのかな？
と、寂しくなった。


時が流れて、議員達が、国のトップが、この国のことを考えているのだろうか？と思うようなことが起こるたび、その人のことを思い出す。

議員は、皆の代表で、皆の意見を届けて、それを何とか形にするのが役目じゃないのかな？
皆が困っていたら、色々考えて、どうにかする努力をするのが、役目じゃないのかな？

と思う。

お金とか、名誉とか、じゃなくて…



その人みたいな議員、この国に何人いるんだろう？


長々と失礼しました。