人が死ぬ夢を見た。
迫り来る電車。
心地悪い衝突音。
飛び散る赤。
夢なのに、何故か忘れられない。
飛び起きたあと、ほんの少しだけ泣いた。
彼は、何故死んでしまったのか。
私は、何故線路の中の彼を見つけられなかったのか。
後味が悪い。
彼の事はよく知っている。
あたしが気まぐれに書いている物語の登場人物で、主人公とともに士官学校に通う同級生。名前はアレス。
別に死にたいと思って生きている訳じゃない。
悩むことはあっても、それを死に結びつける事は無い。
なのに、どうしてあたしの頭は彼を死なせるようなマネをしたのだろう。
主人公の方がよっぽど死にそうなのに。
例え夢でも、死ぬ姿なんて見たくなかった。
彼はこんな死を迎えて良い人間じゃない。
いや、アレスだけじゃない。誰だってダメだ。
どんな人だって、こんな死に方なんて嫌だ。
なのにどうして、こんな残酷な夢を見てしまうのだろう。
そしてどうして、忘れられないのだろう。
無意識下の中で、あたしは死ぬほど悩んでいるのかもしれない。
あたしは悩んでいなくとも、アレスは苦しいのかもしれない。
ただそれに気がついていないだけで、あたしも彼も、何処か壊れてしまっているのだろうか。
死にたかった頃のあたしも確かにいた。それは変えられないこと。
だけど、そんなのたかが過去だ。
あたしは生きなきゃいけない。それがあたしの正義で、倫理で、哲学だから。
死ぬまで生きるのを諦めない。
こんな悪夢、払いのけてやる。
今度は生きて会えるといいな、アレス。
物語の子と会えるのは珍しいから。
悲しい出会いではあったけど、夢でも会えてよかった。