「鈴カステラ」と「芋けんぴ」　～後編～

（前編からの続き）

僕の現在位置です

高校で生徒会の副会長をやってた話は、前にも触れたと思う。
当時、首都圏の私立高校の生徒会メンバーが自主的に集まって、会員制の組織を立ち上げようかって話してた。
とはいえ、そこへ入るとなれば加盟金がかかる？ イニシャルコストは誰の負担？ 事務局を置いたほうがいいのかな？ そんな課題が山積してた。
僕は僕で、吹奏楽部のほうでもマネジャー▶部長になった時期で、先代からの業務承継やらアンサンブルコンテスト参加準備やらで多忙な毎日だった。

そんなとき、品位のある制服で有名な某女子校の生徒会から連絡があったのだ。

授業中、制服のポッケの中の携帯がブーブー言ったから「大事なメールじゃないな」と思いきや、その後にブッブッブッブッブッ……と違うバイブパターンでメールが来た。
「これはN先生（生徒会付きの教員）からだな。何か相談事だな」と思って、10分休みに携帯開けたら、生徒会長と僕あてのメールだった。

「お疲れ様です。さきほど●●女子の生徒会の方々から電話ありまして、こんど挨拶も兼ねてウチの部屋で会えないかとの話でした。ひとまず部活前にでも社会科まで来られますか。よろしくお願いします」とのこと。
（当時の携帯の画面見ながら書いてます↑）

「お、おう……」と思いつつも、「承知しました。後ほど手帖を持って伺います」と返信。
放課後、会長のクラスへ寄って2人で社会科の教員室へ。

N：「あー、どーもどーも。お忙しい所スミマセン。例の件なんですけど、『是非お会いしたい』と先方から強力にリクエストありましてね。僕としては新組織の話もあるので、今回の話お受けしようと思ってるんですよ。Tさん（生徒会長。以下T）と僕の現在位置さんはどうですか。時期的にお忙しいですか？」
T：「そうですねー、時間にもよるんですけど。自分が居られるのは1時間までになりそうです」
N：「なるほどそうですか。現在位置さんは？」
僕：「来週のうち、どこか1日だけ放課後丸々空けられるように調整してみます。土曜の午後でも良いですし、それこそ2時4時とかでも OK です。吹奏楽のメンバーには兼任の話もしてありますので」
T：「マジか、現在位置は大変だな。そしたら、顧問と相談して練習抜けられるか見極めます。先方の希望を聞いて、現在位置がスケジュール合わせて、そこに自分が合わせれば良いですかね？」
N：「それがベストですね。いやーお二人共ほんとに献身的で助かりますよ。中学からI先生の下でやってきてる方々だから話が早い。じゃあ先方には第3希望まで訊いておきますので、その中からウチが対応できる日時にしましょう」

先方にはN先生経由で僕たちの連絡先を伝えてあって、今回ウチがホストになるからお茶とお菓子は用意しないとね～なんて、Tとは話してたんだけど。
お茶は普段メンバーたちが自分で淹れたり、教員に淹れて出したりするお茶っ葉とマグがある。電気ポットとマグは定期的に洗浄してるしな。
お菓子どうしよっか？ って話になって、じゃあ彼女たちに訊けばいいんじゃね？ ということでメールを送ってみた。

夜、自室で宿題やってたら、先方の副会長Uさんから「私たちで用意していきますので、どうぞお気遣いなく！」と返ってきたけど、何も出さないわけにも行かないので、「いえ、ご足労いただくんですから、何かあれば言ってください。あるいは先生のお好きなものでもどうぞ」と返した。
そしたら「うちのYは懐かしいものが好きでよくつまんでいます。あ、でも、ご迷惑になってしまうといけないので……」と来たんで「承知しました。問題ないですよ。高校生男子のセンスで選んでおきますね。当日は気をつけてお越しください」と返しておいた。

次の日、Tに「●女のY先生は懐かしい感じのお菓子が好きらしい」と伝えたら、普段あんまりお菓子を食べないからチョイスに迷うという。
生徒会室の棚には紅茶と緑茶、2種類のお茶っ葉とスティックシュガーが常備されてる（補充は僕の係、自腹）。
まぁ湯呑みこそ無いけど最悪、和洋折衷でも対応できるなと思った。
じゃあ……というわけで「ここは、鈴カステラと芋けんぴかね」と呟いたら、Tは「もはや親世代だな！ 大丈夫か？ まあ大丈夫か」と言うので、それで決定。
（買い出しも何故か僕の係……自腹）

そんなこんなで、その次の週だったかな、土曜日の午後1時半に会長のSさん・副会長のUさんと生徒会付きのY先生の3名が来校。
Y先生から新任の挨拶があったあと、このこ゚縁を大切に……ということで皆様でどうぞ、とTが受け取ったのは、手提げに入ったヨックモックの大箱菓子（記憶が正しければ、あれはサンクデリス）。
手提げはN先生に手渡すかな？ と思いながら見てたら、Y先生はウチの会長であるTに持たせた。
Y先生はTを立てたということだ。あぁ、やっぱり年齢相応にデキる人だな、見習いたいなと感じた。

そこからは早速お菓子の話題に。
高校生同士だからホスト⇄ゲストの関係にとらわれずに気楽に行けたらな……なんて思ってたんだけど、SさんとUさんは、大好きなチョコパイとカントリーマアムを沢山持ってきてくれて、ちょっと安心した。
Tがお茶の準備を始めてるうちに、「Y先生は懐かしいお菓子をよく召し上がると、SさんUさんから伺いました。ただガッカリされたら本当に申し訳ありません」と、安い菓子鉢に入れた鈴カステラと芋けんぴを見せた。
すると、Y先生は目を輝かせて「あら～嬉しい！ 仕事机の引出しにも常備してあるんです～。やだ恥ずかしい。こちらはN先生が？」と言うので、僕が「失礼ながら私が買ってまいりました」と答えると、こんなことを言ってた。

「ティーセットが用意されてたり、菓子鉢に入れていただいたり、お菓子の下にはキッチンペーパーも敷いてある。驚きました。男子校のセンスってすごいなぁって思うんですが、こちらの学校さんは特に。私たちもそうですけど、共学じゃない学校さん同士のお付き合いって、やっぱりちょっと違う。私自身が公立から移ってきたのもあると思いますけれど、何と言うか紳士的でスマートだし、慣れてますよね。でも、そういう生徒さんたちって訓練してるわけじゃなくって、日頃からアンテナを高く張って、人の振りをどんどん吸収していくんだろうなって。それには性別関係ないんだろうなって、見てて思います」
なるほど、納得。
「実は、鈴カステラも芋けんぴも、あの子たち大好きで。食べすぎるとブーになるからねって言うんですけど。きっと喜ぶと思います」と教えてくれた。

そのうちにお茶請けの用意も整って、和やかな雰囲気の中でいろんな意見交換をした。
新組織の話、会計監査と報告のノウハウ、機関誌のこと……あっという間に時間が過ぎていった。
鈴カステラも芋けんぴも大人気で、結構な数を用意しておいたけど完売。ま、食べ盛りだもんね。
3時間ぐらいだったかな、普段は男しかいない生徒会室に女性が3人もいるという“異例の事態”だったわけだけど。
Y先生は落ち着きのある方で、Sさんは清楚で聡明そうな感じの女の子、Uさんは機転の効く明るい女の子で、部屋がパァッと華やかになったのを覚えてる。
あと、ちょっと甘い香りなんかしたりして。

「鈴カステラ」と「芋けんぴ」の思い出といえば、やっぱりこれかなぁ。

★こぼれ話★
さすがに3時間の談義だったので、途中でUさんがお花を摘みに立った。
僕らが付いていくのもアレだろうからと、N先生に案内を頼んだ。
でも一向に戻ってこなくて、結局20分ぐらい待ったけど来ないから「もしや迷子なのでは？」となった。
たぶんN先生が案内したのは来客用の化粧室で、校長室のほうにあるんで生徒会室とはかなり離れてる。

帰り道までは教えてなかったんだろうなー、と思ってたら、Uさんから電話が。
「あの、すみません、迷子になりました。どうやったら戻れますか？」と、若干不安そうな感じの声が。やはり。
「周りに何があるか、分かりますか」と訊くと「2年4組の教室の前です。二手に分かれててどっちに行ったらいいのか……」
「あぁ～、分かりました。新入生も迷う所ですから。今、お迎えに上がりますね」
……と、2年4組の前に立っているUさんに声を掛けて、2人で無事生還しましたとさ。

後日、Tから「あのときUさんと2人きりで何を話してたのさ？ まさか……」と訊かれた。
「ん？ いや特に何も。あぁ、お礼に飴を貰ったときに手が触れたけど、ほっそりしてて柔らかかったのは覚えてる。ふにゅん、ってね」と話したら、Tは「Uさん、なんで現在位置に電話したんだろ」とだけ呟いていた。
ごめんよー。

♪センチメンタル / やなぎなぎ