忘れたいのに忘れられない。
高3のあの頃ずっと好きだった。
落ち着かせるように頭をなでる手が大好きだった。
ずっと心に先輩が居座ったままで消せない。
今までずっと、人に好かれても好きになれなかった。
先輩は私に一言も「好き」だとは言わなかった。
ただの一度も言わなかった。
だけどわたしが先輩を好きだったのは、言葉じゃなく行動で愛情を示し続けられたから。
「お前のために」「お前が大切だからしてやってる」
この言葉は、自分で気づかないうちにトラウマになっていて
先輩はただの一度もこの言葉を言わなかった。
いつも、泣いていた私を優しく抱きしめるだけ。
だからさ、初めてをあげちゃったんだよ。
知ってる。最初からわかってた。私は一年で先輩のもとからいなくなるって。
だからせめて忘れたくなかった。自分自身が。
頭と体で覚えておきたかった。
それが正しいか間違ってるとかどうでもよくて、もうただ先輩が欲しかった。
「先輩、好き」と
今まで絶対言えなかった言葉が口をついて出て。
何も言えないままいなくなりたくなかった。
無かったことにするにはあまりにも大きすぎた存在。
東京に来てからもう一か月が過ぎて、ふと先輩を思い出す。
何度もくじけそうになったけど、結局がんばれてるのは先輩と過ごした時間があったから。
記憶があるから、もう昔のように卑屈になったりはしないだろう。
あの日好きだといった私に、先輩は「ありがとう」と言った。
それでいい。好きだと言われるのは、多分まだ怖い。
夏にはきっと会いに行けるから待っててほしい。
出会ったとき、作り笑いしかできなかった私は
今自然と笑えています。