僕の現在位置です
音楽を流しながら何か作業するとき、僕は決まってシャッフル再生をオンにする。
ステレオシステムでじっくり聴き込みたいときは、何か一つアルバムを決めて、1曲目から最後まで通して聴くけれど。
今、ちょうど曲が変わったところ。
indigo la End の PULSATE っていうアルバムに入ってる、「プレイバック (Remix by Metome)」。
オリジナルのバージョンも好きだけど、このリミックスも好きなんだよね。
前奏のコード進行が僕好みで良き。
”進むから 美しいはずなのに” の部分で、ボーカルがクリッピングしてるのが残念だけど。
あ、クリッピング(クリップ)っていうのは、音楽制作とか音響機器の界隈のことば。
デジタル方式で音を収める際、その録音機器が捉えられる最大の音量(0デシベル)を超えてしまう大音量が入ったときに、音が歪(ひず)んでしまいノイズとして記録されること。
本来なら、ミキシングやマスタリングを担当するエンジニアが気づくはずなのに、どうしてこれがパッケージとして世に出てしまうのか、前々から不思議に思ってたんだよね。
アーティストの意向で歪ませてる作品ならそれで良いし、そういう曲は大抵ブックレットにその旨の注釈がある。
生ピアノを使った曲とかで、奏者がペダルを踏み変える時、ハンマーが線を叩く時に出る、構造上の雑音がそのまま収録されてることもある。
僕も金管楽器を演奏してたし、録音もよくやってたから、その辺りの事情は一般の人々よりも理解してるつもり。
シンガー・ソングライターの安藤裕子のアルバム Merry Andrew に、「Lost child,」っていう曲が入ってる。
とても悲しい気持ちだけど、でも救いはある、そんな曲。僕は大好きなんだ、この曲。
でも残念ながら、CD を聴くと、イントロの部分に「チッ」というノイズがあるのね。
慣れてしまえば、どうってことないノイズなんだけど。
それで、発売元のエイベックスに訊いてみたことがある。
そしたら、窓口の人がすごく丁寧な対応をしてくれて、いわゆるマスターテープ(現代はテープには録ってないけれど)の段階まで遡って、エンジニアの人にも実際にその部分を聴いてもらったんだって。
結論としては、何らかのアクシデントで、マルチトラック・レコーダーからミックスダウンした時か、マスタリングの時に、デジタルノイズとして乗ってしまったもので、現場の事情もあってリトライができずにそのまま素材として使うことになったようだ、という話だった。
返信が来るまでかなり時間がかかったけど、エイベックスが一個人の問合せにそこまで深く向き合ってくれるとは思わず、だから調査報告の内容を読んで純粋に感謝してるし、音楽に対する真摯な姿勢を持ってるんだなって感じて嬉しかった。
それに、わざわざ調査報告っていう形で答えてもらえるとは思ってなかったから、驚いたっていうのもあったかな。
アニソンの歌い手さんが多く所属してるランティス(Lantis)とか、NBC ユニバーサルとか、あの辺りの作品群は「当たり外れが激しい」なんて言われてるよね。
かくいう僕も、NBC ユニバーサルの作品で「Lost child,」の時と同じような曲を発見してしまい、「あらら...」となったので同社に問い合わせてみた。
そしたらね、問い合わせた当日中に「ご申告のあった現象は確認されなかった」として、メールで連絡があった。
「いやぁ、誰が聞いても気づくでしょ...」と思いつつも、メールを読み進めていくと、検証に使った CD プレイヤーの型式が書き添えてあった。
で、ググってみたら、まさかの「東芝の CD ラジオでした、出力 1+1 ワット」っていうオチよ。
(断っておくけど、東芝ブランドの音響機器を揶揄する意図はないよ。格上の Aurex の一部の機種は音質がとても良いし)
「嘘でしょ。仮にも、あのパイオニアの音楽制作部を前身とする会社なんだから、もっと良い機械使ってくれよ~。そりゃ現象も確認されないはずだわ。」って思うと同時に、「ああ、この会社に未来はないな」と確信。
フットワークこそ良かったけど。
会社の資本力がどうとか、制作に予算どれだけ割いてるかとか、スタッフの質が...みたいなこととは違うんだね。
つまるところ、「音」に対してどう向き合うか、お客さんの意見にどう応えるか、なんかそういう根っこの部分からして、比較しちゃいけないんだろうなって感じた。
比較すると、どうしても期待が生まれてしまって、回答を読んだ時にがっかりするから。
こういう話をすると、やっぱり DTM とかの音楽やってたり、楽器やってたり、相手がそういう人だと解ってもらえるんだ。
音の揺らぎとか、僅かなピッチの違いとか、生演奏とパッケージメディアの聞こえ方の差とか、込み入った話もできる。
もちろんノイズの話も然り。
でも、音楽というよりも、耳から入ってくる「音」全般に対して興味関心のない人達のほうが圧倒的に多くて、なかなか話の合う人と出会えないのが残念かな。
それこそ音楽プレイヤーでもイヤフォンでも「え、別に聞ければ良くない?」みたいな。
昔から、製品購入の相談を受けることがよくあって、それは中学高校の頃からそうだったんだけど。
なんかこう、自分の中の軸があって、それに完全にマッチする商品は無いんだけど、できるだけそれに近いものを選ぶようにしてるから、何かものを買って「うわ失敗した~!」っていう経験がほとんど無い。
ただ、音って主観的に捉えるものだから、スピーカーにしてもヘッドフォンにしても、マイクにしても、相談してくれた人がどういう音を求めてるのか分からないと、僕も答えに困っちゃうところがあって。
それで、相談者に訊いてみるんだけど、当の本人が「それが、自分でも良く分かんないんだよねぇ」って言うもんだから、こちらも候補の出しようがないっていうことがままある。
要は、音とか色とか、そういった感覚を言語化する能力、語彙力、そういうのが少ない人から相談された時に、僕も最大限、その人の言わんとしてるところを汲むようにしてるけど、これがなかなか難しい。
クオリアっていう概念があるけど、ホント、その通りだと思う。
同じ音を聞いても、同じ映像を見ても、その感覚は千差万別で、「測定器の値では分からない何か」を感じ取る能力、すなわち「感性」の部分が人それぞれ違う。
だから、AV 機器のアドバイスはとても難しい。あとは車とかもそうだよね。
たとえば、「この車、エンジンの音がうるさいね」「乗り心地が悪くて酔いそうだよ」こういう感想なら、多くの人が共感すると思うのね。アンケート取ったらくっきり分かるレベル。
ただ、その感想を、感性領域まで追い求める(音がうるさい=音がデカい、だけではなく、雑味を感じる・スムースに吹け上がらない・無理してるように聞こえる、という風に具体的に表現する)と、自分と相手では必ずと言っていいほど「ズレ」が生じる。
「このステアリングの切り始めの感覚がね...」「なんか四輪の接地感に乏しいな...」「フロントドアの閉まり音が質感高いね...」と言ったところで、相手の持ってるアンテナが必ずしもそれを拾ってくれるとは限らないんだ。
で、そういうのって、往々にして先天的に持ち合わせてる感覚、センシティビティ。いわば絶対音感みたいなもの。
あとから教育されて身につけられるものじゃないから、さらに問題をややこしくさせてる気がする。そこが難しいよね。
だから音響機器メーカーも大変だよ。「どんな製品を作れば売れるのか...」「ターゲティングが大変...」
その答えが、完全ワイヤレスイヤフォン、ハイレゾ対応プレイヤー、薄型 CD ラジオ、などなど。
それだって、大抵のお客さんは音質云々よりも利便性を求めてるからだと思うし、無線で音楽飛ばして聞くなんて昔は考えられなかったもんね。
Bluetooth の規格にしても、音響機器の分野に採用されるようになって、音質を良くしたコーデックが開発されてるけど、実際、どれだけのリスナーがその恩恵を感じてるのかな、そう思うことがある。
SBC, AAC, aptX, LDAC とか言っても通じないし、だって「聞けりゃあいい」んだもん。
たぶん、マニアの知的好奇心を満たすための技術で終わっちゃうんだろうな。
ロー・レイテンシーとか言ったところで、「へ?」ってなるよね。「遅延? なにそれ電車?」みたいなね。
開発者の人たちがなんだかかわいそうだ。
学生時代にバイト代をはたいてオンキヨーの INTEC 205 を揃えて、3年ぐらい前まで使ってた。
そのオンキヨーも潰れちゃったね。業務はアメリカの音響機器メーカーとシャープが立ち上げた合弁会社が引き継いだ。
もともとオンキヨーは東芝グループの会社。REGZA(テレビ)のスピーカーボックスの設計を担当したり、dynabook(ノートパソコン)の音質チューニングに関わったりしてた。
一方でシャープとも長い付き合いで、かつての「1ビットデジタルオーディオ」のスピーカーを OEM で供給したり、北米向けのワンボディシステムを SHARP のブランドで売ったりしてた(←US アマゾンで買ったことあり)。
その INTEC も、いよいよ修理サービスが出来なくなって、スピーカーもエッジの部分が傷んできたから、箱にしまってある。
でも棄てることはしないよ、これまでの僕の音楽人生にずっと寄り添ってくれた存在だから。
今は、ヤマハの AV アンプ「アベンタージュ」と、DENON の CD プレイヤー、TEAC の MD レコーダー、ヤマハの中古スピーカーで組んでる。
チューナーは無し。建物の影響でラジオの電波が弱くて、AM はもちろんワイド FM も雑音が多いから。
集合住宅だから大きい音は出せないし、場所も取るけど、このシステムで indigo la End を静かに聴くのも、乙なもの。
そんなはなし。