「…ここか」
俺はそう呟き、目の前の大きなチャペルに足を踏み入れた。
今日は、"彼女"の結婚式だ。
幸せと悲しみが入り混じった複雑な気持ちのせいか、胸が痛む。
「どうよ彰。綺麗でしょ?」
俺は、目の前にいる"彼女"にそう聞かれた。「綺麗でしょ?」なんて聞かれたら、答えは一つしかないだろう。
「うん。すっごく綺麗だよ、莉緒」
彼女ーー莉緒は、「ありがとう!」と言い、くしゃっとした可愛らしい笑顔を見せる。
莉緒は、幼稚園の頃からずっと仲が良い。
俺は、明るく無邪気な莉緒のことが好きだった。莉緒も俺を好きだと言ってくれた。
そんな二人は、小学校に入学したばかりの頃に、ある約束をしたんだ。
「莉緒、大きくなったら結婚しようね!」
「もちろんだよ彰!結婚しよう!」
あの約束、莉緒は忘れているかな。そう思いつつも、聞いてみた。
「莉緒。昔した約束、覚えてる?」
もしかしたら覚えているかも。そう期待している自分がいた。
「約束?私忘れっぽいから分からないなぁ」
…やっぱり。忘れているのか。だよな。小1だもんな。俺は莉緒にバレないぐらい少しだけだけど、涙を流した。
純白のドレス。化粧を施した顔。さらさらと風に揺れる長い黒髪。こんなにも綺麗な姿の隣に俺が立つことは許されないのか。
小さい頃にした婚約は、もう無かったことになってしまったのか。
でもまあ、想い人が幸せなら良いんだ。
莉緒が幸せなら。
ずっと幸せでいろよ、莉緒。