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小説「菊の花の彼女」/「少女レイ」オマージュ作品

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nanaha.です。
この小説は、みきとPさんの「少女レイ」をもとに書いたものです。原曲を聞いてから読むことをお勧め致します。
みきとPさんに、最大のリスペクトを込めて。
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「凛ちゃん、よく来たねぇ。さあ、私がいても気まずいだろうし、一人で行くかい?」
「じゃあ、そうします。」
「そうか。じゃあ、あの農道のあたりに看板があるから、それのとおりに行ってね。」
久々に来た気がする、梵の家。前に訪れてから2年ほど経っているだろうか。
梵のお母さんは、相変わらず優しくて気さくで肝が座っている。ただ、少し頬がこけただろうか。不健康な痩せ方をしている。
「では、お邪魔しました。」
「いや、うちに荷物置いてるでしょ。私も凛ちゃんと話したいんだし、そうすぐに帰んないでよ。」
凛ちゃんったら、と鈴を転がすように笑っている。
私はセーラー服のスカートを翻し、目的の地へと向かった。

梵。そよぎ。口の中でその響きを転がす。
梵は高校で出会った、私の一番の親友だった。
「凛ちゃん、見て!この花、菊だよ、菊!」
梵は、菊の花が好きだった。そのためか、梵の家の庭には、菊の花が咲き誇っている。近くの公園の菊を見に行ったこともある。
6月19日の梵の誕生日には、おそろいの菊のキーホルダーを贈った。
無邪気に喜んでいる梵の顔を見て、ふと聞いたことがある。
「なんでそんなに菊が好きなの?」
すると、少しうつむいて顔を赤らめ、
「凛ちゃんにぴったりな花だから。」
と答える仕草は、とても可愛かったのを覚えている。

…いつからだろう、この平和な関係が歪んでいったのは。

私は梵が好きだと気付いた。
これは、友情の好きではない。恋愛感情としての「好き」だ。
でも、私は知っている。同性を好きになることは、笑いものにされることなのだと。学校というコミュニティの中では、罪に値するものなのだと。
実際、「凛と梵って付き合ってるの?」なんて嘲笑されたこともあった。
だから私は考えた。罪とされないように彼女と関わる方法を。
そして新学期の9月1日、私は本当にそれをした。

梵は自分の机を見て呆然としていた。
「梵、どうかしっ…」
気づいた私は言葉を切り、梵は、机の上を指さした。
そこには、菊の花が挿された花瓶があった。
「なんかさぁ、アンタ。」
戸惑っているうちにいつの間にか、目の前にギャルの三人組がやって来ていた。
「凛と仲良くなったからか知らないけどぉ、最近イキっちゃっててダッサイよ?」
「それな。男ウケ気にしすぎっていうかぁ。天然な自分カワイイって思ってそうw」
「ウチらこれ前から思っててぇ。でも言わないであげてたんだよ?」
「この花瓶置いたヤツ、マジナイスすぎ。みんな思ってたってことだよねぇw」
「ウケるwww ってか、凛も横居てあげなくて良いよぉ。ウチらと居よ?」
「ってことで、じゃね〜」
三人は一気に捲し立てると、最後に梵の足を踏んづけて去っていった。
私は梵の腕を引き、廊下へと連れて行く。
「梵、大丈夫?」
うつむいている梵に声を掛けると、薄く笑って私を見た。
「私は大丈夫だよ。凛ちゃん、もう私と居ちゃだめだよ。離れてよ?ね?」
梵は自らに言い聞かせるように言葉を紡ぐ。その瞳に涙が溢れ、その声は掠れて震えていく。その様は酷く残酷で、醜かった。
私は、陶器の様に白い肌を、静かに両の腕で包み込んだ。
「なぁに。大丈夫だよ。梵ひとりで戦わせない。二人ならへっちゃらだよ。ね。」
私は梵の耳元で囁く。
「私の手を掴みなよ。」
そして、梵の手にそっとキスをした。

梵は少し不思議ちゃんな節があり、それを一部の、いや、大半のクラスメイトが疎んでいることも私は知っていた。
だから、私はそれを利用した。
花瓶を置いたのは、何者でもない、私。そうすれば、さっきのギャルみたいに誰かが表立ってイジメだすのだ。これは、この戦場を生き抜くための常識。
菊を選んだのは、梵の好きな花が、葬式で供えられる花なのだという皮肉だ。
思わず笑ってしまいそうになるのを堪え、腕の中に梵がいることの幸せに浸る。
このまま二人きりの世界で、愛し合えるさ―。

そこから私達は、もっと仲良くなった。
教科書を隠された日は二人で机をくっつけて読み、体育倉庫に閉じ込められた日は助け出した。ジャキジャキに切られたスカートを、一緒に縫ったことだってあった。
私も巻き込まれたけど、梵に頼られる幸福感がそれを上回った。
でも、そんな幸福も長くは続かなかった。

1年生としての1年間を終え、春休みが始まった頃、事件は起こった。
終業式の日の夜、梵のお母さんから電話があった。
「はい、もしもし。雨乃です。」
『あ、凛ちゃん?夜遅くにごめんねぇ。あの、梵のことなんだけど。』
電話口のお母さんは、慌てているようだった。
「あの、落ち着いてください。急かさないので、深呼吸して。」
『ふぅ…取り乱してすまないね。それで、梵のことなんだけど、見てない?』
「梵ですか?今日はいつも通り門の前で別れて、その後は特に…。あの、梵になにかあったんですか?」
嫌な予感がする。冷や汗が吹き出し、背中がチクチクする感覚を覚える。
『それが…まだ帰ってきてないのよ。』

2日後、梵は見つかった。
線路の中で、遺体として。
制服姿で見つかったことから、学校を出たその足で向かったのだろう。通学鞄についていた菊のキーホルダーは、いつか私があげたものだった。
「梵、ごめんね、ごめんねぇ…っ。」
梵のお母さんの咽び泣く声をバックに、私の心は不思議と凪いでいた。
いつかこうなるとわかっていた。私の行動で、梵を傷つけることもわかっていた。でも私は、梵を傷つけてまで自分のものにしようとしたのだ。
だって、梵が悪いんだ。梵が私以外を見るから…。
自分の考えに、責任転嫁も甚だしい、と鼻で笑う。
もう一度梵の遺体を見ると、菊のキーホルダーが千切れていることに気付いた。

「凛ちゃん、起きて!」
寝ぼけ眼を擦りあたりを見渡すと、そこは一面の菊畑だった。
「おわ、起きたぁ!凛ちゃんおはよ!」
そして、セーラー服に身を包んだこの少女は、
梵だった。
「梵!?」
「うん!いやぁ、向こうで事故に巻き込まれちゃってさ、こっち来ちゃった!」
「事故…。」
「そうそう。生理中でさ、貧血気味だったんだ〜」
のほほんと喋る梵を、私は驚いて見る。でも、状況を飲み込むと、ホッとした自分がいた。
この期に及んで何を、と思うも、私のせいじゃないことに安堵している。
「最近ゆっくり喋れてなかったし、菊見ながら喋ろうよ!」
久しぶりに二人でじっくり菊を見た。色とりどりの菊の花が咲き誇る菊畑は、とても美しく神々しささえあった。
「私、やっぱり菊が一番好きだな。」
珍しく静かな声で呟いた梵が、とても孤独に見えた。

「楽しかった〜!っと、言わなきゃいけないことがあるんだ。」
あたりを巡り終え、伸びをしているところだった。
「あのね、凛ちゃんに伝えたいことがあるんだ。」
嬉しそうな、でもどこか泣き出しそうな笑顔を私に向ける。
「何?」
すると、目から大粒の涙をぼろぼろと零す。
「君は友達だよ。」

もう何十年も前の話なようで、1日しか経っていないようにも感じる。
これまで、怖くて墓参りをしていなかった。でも、高校を卒業するこのタイミングで、自分の感情に折り合いをつけておきたかったのだ。
「―梵。」
集団墓地の一角、教えてもらったお墓へとたどり着く。
できるだけきれいに掃除をし、線香と菊を供える。思い出の公園から取ってきた菊だ。
墓の前で目を閉じ、手を合わせた。
あの笑顔が、あの無邪気さが、私の頭を今でも蝕んでいるんだ。
本当に最低なことをした。だからせめて、今私が言えるのは。
「安らかに、お眠りください…。」

目を開けると、そこには。
透明な梵が、私を指さしていた。
『眠れないよ。』
頭の中に、梵の声がフラッシュバックする。
蝉の声と菊の影が、その声を立体的にする。

ああ、今更だけど気づいたよ。

「今、そっち行くね。」

菊の花の花言葉:あなたはとても素晴らしい友達
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お読みくださりありがとうございました。
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nanaha.
(小瓶主)
ななしさんへ
お返事ありがとうございます。

ええ、気づきましたよ。
Aさん、ですよね。

承知しました。
待ってますね。

ネリネを、贈ります。
大好きです。
貴方に幸あれ。
nanaha.
(小瓶主)
彩紗さんへ
お返事ありがとうございます!

蝶々Pさんも好きなんですよ!
「心做し」で書こうかな、とか思ったり…。
みきとPさんは、「少女レイ」みたいな意味深系もできるけど、「ロキ」とかのバチバチロックもできるから、音楽家として尊敬してます!
別に失礼ではないと思いますよ〜

初めてだったんですね!
このお話きっかけで好きになってくれたの嬉しいです(*´ω`*)
本家様の世界観を最大限詰め込みました!

楽曲の中に潜む問題は、意外と身近にある。
そう感じたので、結構ぎゅぎゅっとお話に入れ込みましたね。
世の中にある問題は一つだけじゃないから。

凛もギャルもクラスメイトも、残酷ですよね。
「分からなかった?想像してみた?」
多分、分からなかったんですよ。
もしくは、分かってたから利用した。
人間ってそんなもんなんですよ。
いじめっこの心理って。

「荘厳」って言葉、素敵ですね!
僕もお話の中にそういう言葉入れてみようかな。
美しいからこそ、影が目立つっていうのかな。
例えるならガラスみたいな、そんなイメージで書きました。

透明感、嬉しいです!
僕も感想コメントいただけて幸せです!
僕からは、ピンクのバラを五本、贈りますね🌹
nanaha.
(小瓶主)
kitunekunn.さんへ

ボカロの小説化、熱いですよね。
「あの夏が飽和する。」買おうか悩んでるんですよね…。
少女レイの小説版、僕もほしいなぁ。

激励のお言葉、ありがとうございます。
良ければ、なんのボカロが良いか教えてくださると嬉しいです。

ななしさん

ごめん、聞いてほしい話があるんだ
私は茜推しの人だよ(気付いて!)
マイページは削除しないけど、私、一度離れてみようと思って…
今月中にするつもり
目的は人間関係をリセットすること
だから、出来れば別人として戻ってきたい
うまくやれるか分からないけど
なっぱにも「はじめまして」で会いに行く
そんなに長い間いなくなる訳じゃないから
戻って来たら、なっぱに相談するための専用小瓶、流してほしい…
彩紗
みきとPさん!
私、なっぱが書くなら蝶々Pさんだと思ってた
私が感じたことが、なっぱとみきとPさんに失礼になりませんように

「少女レイ」、実は初めて聞いたんだけど、すごく良い曲!!
大好きになった(*^ー^)ノ♪
「菊の花の彼女」この曲にぴったりの作品だと思ったよ!

友情、恋愛感情、いじめ、……死
色んなものが詰まった物語だね
凛と梵が「友達」だったら
凛の気持ちが「友情」だったら、いじめはなかったかな
教科書を隠された、体育倉庫に閉じ込められた、
スカートを切られたっていうの、読んでて辛かった…

もちろん、いじめた人が悪いよ
でも、もし凛が花瓶を使わなかったら、いじめはなかったかもしれない
…いじめが始まってしまったら、梵がどれだけ苦しむか、分からなかった?
心の傷がどれだけ痛いか、想像してみた?
どんなに寄り添ってくれる人がいても、もう無理なことってあるんだよ……
凛に対しては、そう思っちゃった

二人が菊畑で話をする場面は、荘厳な雰囲気に惹き付けられたよ
「色とりどりの菊の花が咲き誇る」中を、ゆっくり歩く二人の姿が思い浮かんだ
だからこそすごく綺麗で、とても切なかった
線路にいた梵が夢で、菊畑にいる梵が現実ならいいのに
私はそう思ったし、凛もそう思った気がする

少女レイの歌詞
「二度とは帰らぬ君
永遠に千切れてくお揃いのキーホルダー」
線路にいた梵が現実、っていう感じだけど

なっぱの小説に書かれてる、凛の最後の台詞
「今、そっち行くね。」
梵が命を絶つという悪夢から目覚めて、現実に戻る凛、っていう意味に捉えたいな
凛の「恋愛感情」は叶わなかったけど
二人の「友情」は、これからもずっと続くって

すごく透明感のある物語だった
久しぶりになっぱの小説が読めて、嬉しかったよ!
お礼に私からなっぱへ、
沢山の菊と赤いゼラニウムの花束を贈るねଘ(੭ˊ꒳​ˋ)੭✧💐
kitunekunn.
@nanaha.さんへ
お返事ありがとうございます!

前も言いましたが、この作品めちゃくちゃ好きです。
本が出てたら悩まず買うレベルです。
次の作品も待ってます!!
nanaha.
(小瓶主)
kitunekunn.さんへ
お返事ありがとうございます。

「少女レイ」いいですよね。
心理描写は少ないのに、胸の内までイメージさせてしまうみきとPさん、さすがです。

「君は友達」は、どうやって入れ込もうか悩みました。
なんか、生きている間っぽいセリフじゃなくて。
あと、「今、そっち行くね」は最初から入れようと思ってました。
ぐっと来たならとても嬉しいことです。

僕からも、この物語に出会っていただき嬉しいです。
感想もありがとうございました。
kitunekunn.
お話すごく良かったです。
「少女レイ」好きだったんでこんなに素敵なお話に出会えて嬉しいです!
最後らへんの「君は友達だよ。」と「今、そっち行くね。」のところがぐっと来ました。

本当に素敵なお話をありがとうございます!!
nanaha.
(小瓶主)
ななしさんへ
お返事ありがとうございます。

話の展開は意識した書いたところなので、ご評価いただき本当に嬉しいです。
原曲と少し流れが違うところもありますが、そちらのほうが小説としては良いかと思い…。

梵を花好きなキャラにしようと思ったんですけど、その時に花言葉と絡めたら面白いのではと思ってやってみました。

「少女レイ」いいですよね。
同士が居てすごい嬉しいです。
素敵と思っていただき光栄です。
ありがとうございました。

ななしさん

話の展開の仕方が上手で読みやすかったです。
「君は友達だよ。」のところで息を呑みました。
あと、菊の花が出てきたときに最初は仏花っていうのを利用して出しているのかなと思ったけれど、最後に花言葉を読んでなるほどこんなところまでこだわっていたのかと驚きました。
私も「少女レイ」好きなので、素敵な話を読めて嬉しかったです。
(文章書くの下手ですいません)
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