〜瑠唯視点〜
「天羽、ちょっといい?」
中休み、図書室を目指していると、声をかけられた。
現代文の課題、終わらせちゃいたいのにな。あと、あの赤本早めに行かないと借りられるからな。今はめんどいな…。
そんな感情を抑えて外面を整え、体ごと声の方へ向ける。
「設楽先生。どうかされました?」
「あ、ごめん。進路調査票のことで話したいんだけど。相談室来れる?」
「了解です。」
設楽先生は、僕達2年5組の担任で、物理の先生だ。
ノリや面白さがあるわけではないが、僕はかなり信用している。授業で勝負している先生って感じで好きだ。
でも、クラスメイトは設楽先生を好いていない。この学校で語り継がれている「設楽伝説」のせいだ。
今から4年前。先生が当時受け持っていた生徒がは、不良やギャルが多かったそうだ。そのうちの数人が、先生のことを馬鹿にしたのだ。
『せんせー、質問でぇす!え、設楽って独身なの?ママが言ってたんだけどさぁ。』
『まあ、そりゃモテないっすよねw 俺、この辺の女詳しいんで、紹介しましょっか?w』
『いや、お前と付き合った女、設楽には不釣り合いだろw とりあえず身の丈に合う女探しな〜?』
なんで不良どもは、自分と先生が同じフィールドって思ったんだろうな。先生と生徒は対等なわけないのに。
まあ、それはさておき。
それを聞いた先生が、怒鳴るわ物を投げるわで大惨事。事件から一週間足らずで生徒数人が退学。先生にも処分が行ったそうだが、誰も知らないという。
その伝説を聞いた生徒たちは、先生のことを恐れてるってわけ。
でも、僕からしたら不良たちが悪く見えるし、たった一つの過ちで人を測るのは違う気がする。
それに、あくまで僕らは先生と生徒。友達じゃないんだ。
「進路調査票、なにか問題ありました?」
「いや、天羽って医者目指してんだなって。」
「…はぁ。」
「天羽、そんな医療に興味ある感じしなくてさ〜。」
「…それが話したかったことですか?」
「いや、本題は別。でも、医者目指して無くても、学歴のために医学部入るやつ多いから。天羽もそうなのかなって。」
これつかみかよ…。って、え?
さらっと僕の本心に触れてきたことにびっくりしてしまう。
僕の進路も親がレールを敷いている。高校は附属高校にエスカレーターで進学。大学は東大の医学部。
僕は別にこだわってないけど、親が、特に母さんが学歴至上主義なので、これに従っている。
設楽先生は急にこうやって物事の本質を突くから、僕にしても手の内が見えない節はある。
「別にそんなことないですよ。医者に興味はあります。で、本題ってなんですか?」
「橋本…いや、藤間明來のことなんだけど。」