鯨になる
朝。目が覚める。重い体をなんとか起こし、時計を見る。
昼の11時を回っていた。
ベットから立ちあがろうとすると、腕に刺すような痛みが走る。
慌てて腕を確認する。
直線的な切り傷が何本も重なっている。
絆創膏も貼られていない、手当されていないその痛々しい傷口からは、血が滲んでいた。
先ほど立ちあがろうとした時のものだろう。
ああ、そうか。昨日切ったんだ。
まだはっきりとしていない頭で昨日の記憶を掘り起こす。
手当、しないと。
傷口にクリームを塗る。少ししみたが、我慢して塗り続ける。
クリームをまんべんなく塗り広げ終えると、昨日の疲れが蘇ってきた気がして、
私はまた横になる。
青いベットシーツをぼんやりと眺める。まるで海のようだ。
体の力を抜き、深呼吸をする。
手は胸びれに。
足は尾びれに。
鼻は噴気孔に。
腰の付け根からは背びれが生える。
顎から胸にかけては畝(うね)が出てくる。
自分の身体が、何倍にも大きくなるのを感じる。
鯨に、なる。
冷たい水が私を包む。
海の中では、自由なのだ。思いのままに泳ぐことができる。
鯨のまま、死にたいと思う。
海底に沈んで、ゆっくりと、長い時間をかけて身体を貪られ、骨になるのを想像する。
とてつもなく、大きな骨_____
目が覚める。時計を見る。18時。
いつの間にか日が暮れていた。
しばらくぼんやりしていたが、また傷口が痛み始め、クリームを塗る。
人間の手。人間の足。
ため息をつく。
傷口から滲み出た血が垂れ、私の膝に落ちた。
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小6の時に使っていたノートから発見しました。
少し修正して、載せることにしました。
ちょうど今日、鯨の缶詰めを食べました。
少し癖のある味でしたが、私は好きでした。
食べた鯨が、私の一部になる。
まさに「鯨になる」ですね。
2024.10.29