「此処から、飛び込もうか」
貴女の声は冷たくて
足先からつんと寒気がした
「馬鹿な事言うな」
電話越しでよかった
そうでなければ僕の顔を見られてしまうだろうから
貴女が怖かった
ひとりの命をずんと僕に預け
僕の命は貴女の掌中に在った
こんな時ばかりは嘘をついて欲しいものだと思うけれど、生憎貴女はそんな女性ではないのだろう
僕は弱い人間だ
貴女の餌食となるような
あの人の思い出になるような
ただの人間だ
美しいものは恐ろしい
不自然であるから
「本気だよ」
そんな事わかっているさ
飛び込まない事も死なない事も貴女が本心から告げている事も
もう一択しかないじゃあないか
これじゃあ脅しだろう
「ごめん」
貴女を愛するしかないだろう
ひとつだけ誇れるものがある
愛するふりは上手いこと
見破られていようがいまいが貴女が満足しているのなら構わない
満足してくださらないのであれば斬って頂いて構わない
貴女が好き
知ってる
愛していることと、好きの違いは何だろう
重さか長さか面積か体積か
貴女に命を握られた日から僕は死んでいたのだろう
絶望なんかしていない
幸せだとさえ思う
後悔はない