ゆでたまごを作ると、ちょっと悲しくて、心のどこかがチクッとなる。
それはまだ『先生』がある意味絶対的存在だった頃のお話。
小学五年生の調理実習でゆでたまごを作った。
先生に言われた通り、鍋に卵と塩を入れて、コンロにかけていた。
ぐつぐつと沸いてきた頃、先生が家庭科室を巡回していて、先生が私達の班の鍋の様子を見て、
「沸いてきたから、火を消してね」
と、言われた。
何か変だな、と思いつつ、先生の態度に圧倒されて、班長が火を消した。
そのうち、皆が出来上がり、試食することになった。
うちの班のゆでたまごを割ってみたら、半熟。
それを見た先生は、
「ちゃんと先生の話を聞かずに火を消したら、こんなふうになります」
と、うちの班のゆでたまごを皆に見せた。
班長が、
「先生が止めてって言ったから」
「止めたのに」と言い終わる前に先生がその言葉を遮り、
「は~い!皆さん食べましょう!」
そして、私達の班を睨んで、それ以上言わせなかった。
私達は半熟の卵を仕方なく食べた。
それからもう40年近く。
ゆでたまごを作るたび、そのことを思い出して、悲しくなって、心のどこかがチクッと痛くなる。
今みたいにはっきりと先生に言える時代ならば、そんなふうにならなかったのかな…
ふと、思ってしまった。