恋だった。それは、恋だった。
昔から、恋バナは聞く側の人だった。
恋なんて、漫画やアニメでよく見るくらいにしか知らなかった。
それは、美人な芸能人に対して感じる憧憬と、同じようなものだと思っていた。
あの人に出会って、あの人を知って、恋に出会って、恋を知った。
恋はとてもキラキラとしていて、甘ったるくて、苦しくて、優しいものだった。
その人が特別に思えて、その人を見るだけで幸せで、たまに苦しくなって、それでも、捨てられない感情だった。
例え、たとえ私があの人にとって、大勢の中の一人でしかないとしても。
たとえ、叶うことのない恋だとしても。
あの人を知って、声を聞けるだけで幸せだった。
あの人の穏やかないつもの声、得意げな声、不思議そうな声、ムッとした声、笑い声、優しく諭す声も、悲しげな声も、怒っている声も、他の人と話している声も、全部が好きだった。
作りものの体でこの世界に生を受けた、声しか知らないあの人が好きだった。