帰る家はあるけれども、帰りたくない。
家族は善良な人達で、帰ってくると誰もが「ただいま」と言ってくれる。けれど、帰りたくない。
疚しいことなんてしていないし、家族のことなんてこれっぽっちも嫌いではない。でも、帰りたくない。
温かく迎え入れてくれるこの家族の良心を何故だか自分の心が受け入れてくれない。
贅沢すぎる悩みだと思えて、申し訳なくなる。誰に対してそう思うのかすら分からないのに。
「おかえり」と言われる事がどれだけ幸福な事かは自分でも分かっているのだけれども、その「おかえり」と言われる資格が自分には何故だか無いように思えてならない。
いつからこんなことを思い始めたのか自分でも分からない。
きっと自意識過剰になっているに違いない、そう思い込んで、開き直ったつもりで玄関の前に立つと、つい立ち止まってしまう。
自分は家族を欺いている酷い人間なのかな。