拝啓
寒さの厳しい折、いかがお過ごしでしょうか。5年後の私です。
きっと今頃、生きていくことに答えが出せずに困り果て、ベッドサイドにカッターナイフやら荷造りひもやらを用意していると思います。
あなたはずっと、何か特別な人間になりたいと思っていましたね。
「今の何もない自分は嫌いだ」って思っていますよね。
それは、成績優秀で人当たりのいい兄や、何もしなくても親戚に注目された従兄弟たちのなかで唯一の女の子として育ったから。
良い子でいなきゃ彼らと並び立てないとか、すごい成績を残さなければ注目してもらえないとか、そういう脅迫めいた気持ちでいつも過ごしてきたから。
その気持ち、とても分かる。要はコンプレックスだったんだよね。
分かるけれど、悲しいかな。あなたはどれだけ願っても「すごく特別な何か」にはなれません。
なんなら自分の在り方にも周囲の人間にも嫌気がさして、本格的に心を病む一歩手前まで行ってしまう時期が来ます。
うまいこと滑りこめた大学を卒論が書けなくて留年します。2回目の4年生の冬になっても卒論がぎりぎりまで書きあがりません。
特別な何かにはなれなかったし、17歳のあなたの思う「落ちこぼれ」になった。
でもね、でも、私は今の自分が好きです。
何者でもないけれど自分のことが好きだし、何者でもない私を愛してくれる人たちとたくさん知り合えました。
それはね、17歳の時点でのあなたが、「今の何もない自分のことは嫌いだけど、できれば好きになりたい」と願ってくれていたから。
自分のことを嫌いなままで人生を終わらせる決断をしなかったから今があります。
「生きていればいいことがある」なんて、結果論です。この言葉を希望として死にたさを打ち消すなんてきっと難しいでしょう。
でももう少しだけ、死ぬのを待ってくれませんか。
いろんなことに絶望してもいい。いろんなことを恨みながらでもいい。
私はあなたに生きていてほしいとそう願っています。
敬具