言葉を交わしたのはほんの数えるほど。
それでも、たくさんおしゃべりして同調して仲良し・・・のはず・・・の女友達よりずっとずっと、
その人とは同じものを共有できていたことに驚く。
本当にささやかな言葉のやりとり。
多くを言わなくても、こちらの真意を当たり前のように受け止めてくれた。
こういう人がいるんだ! こういう人がいたんだ!
あの時の静かな驚き・・・。
言葉を尽くしても伝わらないものは伝わらない。
どれほど同じ時をともに過ごしても、すれ違う言葉。
それが、あの人にはわずかな言葉で通じたのだ。
恋ではない。
恋するほどに距離が近づくようなことはなかった。
ほんの束の間、互いの時間と空間が交差しただけ。
もう二度と会うことはないのかもしれない。
人生の中ではささやかな出会いのひとつ。過去もなく未来もない。
始まりもなく終わりもない。
雑踏で、ふと目が合い、思わずにっこり笑ってすれ違っていく、ただそれだけの出会い。
それでも思ってしまう。
もう一度会いたい、と。
その時にはもしかしたらもう少し距離が縮まるかも、
もう少し立ち止まって言葉を交わすだけの時間が持てるかも・・・と。