中・高時代は私にとって黒歴史そのもの。
クラスの卒業文集の「将来●●になってそうな人」のアンケートで、
なんと私は「将来、犯罪者になってそうな人」に名を挙げられていた。
卒業式の日に。
最後の最後で配られた文集でそれを知って・・・。
殴られたようなショック。
中学で転校して、全く文化も雰囲気も違う環境で、
教師も友達も誰も信じられなくなるようなことがあり、
心を閉ざしていた私。
転校する前は、たくさんの友達がいて、大好きな先生や先輩もいて、
学校に行くのが毎日楽しくて仕方がなかったのに、
180度変わってしまった。
みんながみんな、教師までもが保身に徹していて、
他所から来た私など、何をされようがみんな見て見ぬ振りしていた。
まずそのことに驚いた。
みんな自分が次のターゲットになるのが怖かったんだと思う。
誰一人として私をかばおうとしなかったし、
先生に助けを求めに走ろうともしなかった。
私がされることを黙って見ていた。
時には気まずそうに下卑た笑いを浮かべながら。
靴をトイレの汚物入れに投げ込まれたり、
体操着がゴミ箱から見つかったり、
机の上が、土足の跡で汚されていたり。
休み時間に呼び出されたり。
泣いて、前の学校に戻りたいと親に訴えたけれど、
はるか離れた県に引っ越して、
もうそれはできないとわかり切っていたから、
絶望の日々。
親も、自分の娘がみじめな状態に陥っていることを恥じているようだった。
父が、来客に笑いながら言った言葉が忘れられない。
「いやぁ、学校でいろいろヤられたようでしてね」と。
母は、私の成績しか気にしていない。
クラスで何番目? 校内では?と、そんなことばかり言ってくる。
きっと暗い目をしていたんだと思う(当たり前でしょう?)。
誰一人頼りになる人はいない。
誰一人、私と一緒に泣いてくれる人、怒ってくれる人はいない。
心を殺し、ただ時間が過ぎるのを
耐えるように我慢して学校に通う日々だった。
そんな私の暗い様子を「犯罪者」に結びつけたのだと、すぐに気づいた。
でも、これはひどすぎる。
生贄と同じ。
クラス中からの、教師からの、学校からの生贄。
逃げるように高校生活に滑り込んだけれど、
いったん深く傷ついた心は簡単には癒えない。
誰も信じられない。
仲良しグループはできたけれど、それでも心開けず、
みんなに合わせているのが苦しくてたまらなかった。
心が混乱して、
もはや、昔の明るい、ひょうきんな私に戻る方法が分からなくなっていた。
早く、卒業したい、早く別の環境へ逃げたい。
早く、誰も私を知らない場所へ、同じ高校から誰も行かない大学へ行きたいと、
そればかりを思って勉強に逃げた。
逃げ続けてばかりいるのは分かっていたけれど、
他にどうすれば良いか分からなかったから、それしかなかった。
毎日がストレスの連続。
学校は残酷な場所。
毎日、お弁当を誰と食べる?
校内行事は誰と組む?
修学両校は好きな人同士で部屋割りって、誰と組めばいいの?
部活は?
運動会、なんの競技に誰と出ればいいの?
自由に、好きにしていいって・・・・これほど残酷なことはない。
授業だけが、私がホッとできる時間だった。
そうして再び迎えた卒業式。
今回も最後の最後、
クラスのお別れホームルームでまたも配られた文集を見て、
死ぬかと思うほどのショックを受けた。
頭を殴られたような衝撃って、まさにあのことを言うのだと思う。
信じられないことに、またも私は「10年後に犯罪者になっていそうな人」に名前を挙げられていた。
心臓がえぐられるようなショックだった。
なぜ?
私は他の人を傷つけるようなこと、何一つしてない。
私が、こんな残酷なことをされるほどの何をしたっていうの?
私なんかより、よほどあからさまに、人を傷つけていた人たちを知ってる。
その人たちより私のほうがひどいっていうの?
私はあんなひどいことできない、しない。
なのになぜ?
文集を印刷するときに、先生は目を通さなかったの?
こんなこと、どうして許したの?
クラスの文集委員たちに、こんなアンケートはやめるように言わなかったの?
文集はずっと残るものなんだよ?
泣き出したかったけれど、
そこで泣けば、私の名前を書いた人たちの思う壺だから、
何も気にしていないフリをして耐えた。
帰宅して、急いで文集をシュレッダーにかけた。
中学の時もそうした。
親に見られたくなかったから。
放課後に部活もせず友達と遊びにも行かず、
学校から帰ってくると、
学校で一日をどうにかやり過ごしたストレス疲れと
現実逃避のために眠ってばかりいる私の横で、
私が眠っていると思い込んで「この子は友達と遊びに行かないね。
この年頃の子はそうするはずなのに」と
不思議そうに話していたのを知っていたから。
友達がひとりもいないどころか、
クラス中から蔑まれている娘だと知られたくなかったから。
私がどれだけ傷つき、心から血を流しているかなんて知られたくなかったから。
情けない奴だと、ダメな娘だと思われたくなかったから。
声を出さないように、全身をふるわせて泣きながら。
クラスの人たちや先生を憎みながら、
「私は絶対にこんなふうに他人をきずつけたりはしない !」って、
なんどもなんども声を押し殺して呟きながら、
文集をシュレッダーにかけたことが忘れられない。
ずいぶん長いことクラスのみんなにされたことが忘れられず苦しい思いをしてきたけれど、
何年も何年も経って、
もっともっといろんなことがあって、
良いことも、ひどいこともあって、
大笑いしたり苦しんだり、手首に刃物を当てたり、
はしゃいだり、泣いたり、無気力になったり、時にはリーダーシップをとって見たり、
心を病んだり、立ち上がったり、また笑ったり、
人を憎みたかったけれど、憎んだら負けだと必死でこらえたり、
あらゆる感情を経験して大人になって、強くなった。
強くなった、と思う。
今も心のどこかに人間不信のかけらが残っていて、
感情を素直に表現することは、とても苦手になってしまったけれど。
私は犯罪者にはならないし、これからもならない。
当たり前だ。
「犯罪者になりそうな人」のアンケートに私の名前を書いた人たちこそが、
下手をすれば私を死に追いやっていた犯罪者そのものであると、
今ならわかる。
もし、あの時、私が死んでいたら?
県下でも有名な、清楚なお花の名前のついた
敬虔なカトリック女子高で起きたいじめとして、
かなりの話題になったでしょうね。
愛と誠実を掲げる学校の生徒たちがひとりの生徒を、
お遊び気分で思いやりのかけらもない下劣な追い詰め方をしたと。
学校は、生徒たちの残酷な仕打ちをなんとも思わず文集を印刷所に通し発行したと。
学校は必死になって、あの文集を隠蔽しようとしたかしら?
担任は「知らなかった」といって責任のがれをしようとしたかしら?
私の名前を書いた人たちは、少しは後悔したかしら?
私の両親に、涙を流して謝罪を申し出た?
でも、そうはならなかった。
私は、負けなかったから。
だから、あの残酷な仕打ちが世の中に知れることはなかった。
こんなふうに、表に出なかった、あるいは今も出ていないひどいことって、
どれだけ埋もれているんだろう。
大人になった今、私の名前を書いた人たちに言いたい。
私は死ななかったけれど、
そしてこれからもあなたたちの思い通りになるつもりは全くないけれど、
あなたたちは一人の人間を、
ヘタすれば死に追いやりかねなかった犯罪者と同じなのだと。
自分たちが、悪意をまじえて面白半分にやったことの重大さがわかりますか?と。
きっとみんな忘れているのでしょうね。
自分たちがしたこと。
クラスでマイナーな存在で、よってたかって悪意を向けても自分たちはなんの被害もこうむらないと、
バカにしていた私の存在そのものも忘れていることでしょう。
でも傷つけられたほうは、決して忘れることはできない。
でも、私はあなた方にありがとうと言う。
あなたたちの残酷さのおかげで、というか、そのおかげも一部にあって、私は強くなれた。
私は、不当に傷つけられる人の気持ちがわかる人間になれた。
そして私は、あなたたちと同じことは決してしない。昔も今も。
痛みがわからない人は、子供も大人も関係ない。
そこいらじゅうに、そんな人はいる。
あるいは、自分が痛みを負うのをおそれて、
襲われる前に誰かを傷つけるような、
誰かが目の前で傷ついていても見て見ぬ振りして通り過ぎ、
平気でなかったことにしてしまえる
臆病で情けない人間も山ほどいる。
でも、そんな人たちと同じではない自分であることを誇りに思う。
名前のない小瓶
121548通目の宛名のないメール
お返事が届いています
ななしさん
そんな卒業アルバム捨てちまえ
シュレッダーかけて正解だよ
それ作ったやつ絶対まともじゃねえから
そのアンケートを作った人も、
それにあなたの名前を書いた人も、
その卒業アルバムになにも言わなかった先生も、
あなたのことなんか何もわかってない
あなたは頑張ってる
賢くなって、
優しくなって、
強くなって、
幸せになって、
そいつらのことを見返してやろう。
そんな奴らのことを覚えておく必要なんてないけど、なりたくない姿として覚えておこう。
あなたの親に関しては、私は何も言えないけど、私は親は大切にしたほうがいいと思う。親って何にも代えられないものだから。
あなたは強い。
これからもがんばっていこう。
これからは、わたしも一緒に頑張るよ。
大人になっておめでとう㊗
ななしさん
立派だよ、あなたは。
読んでて涙が出た。
あなたの周囲の残酷さと、身内の鈍感さに、子供のころの自分を思い出した。
小学校・中学校であなたと同じように苦しめられて、殻を厚くして何も見えない聞こえないようにふるまってきた。
そのせいで、子供のころから愚図・怠け者とさんざん言われて、今では空気が読めない・気が利かない人間と思われているけど、小さい頃からやることも分かっているし、もちろん出来る。
でもやらない。
そうすることが私の復讐。
楽だよ。そいつらの評価通りにふるまうってことは、何もしなくていいってことだから。
でもあなたは違う。
自分で出来るだけのことをして、今がある。
尊敬する。
過去の亡霊たちは、私が呪っておくよ。
そいつらの記憶は消えないと思うけど、そいつらの不浄は私にちょうだい。
以下はまだお返事がない小瓶です。
お返事をしていただけると小瓶主さんはとてもうれしいと思います。