こんにちは。元気にしてるかな?
今日はどんな天気だった?君はその天気が好き?
ご飯は何を食べたの?美味しかった?
学校は楽しい?友達はできたかな?
在り来りな質問を並べてみたけど、それに君が明るい答えをくれたのなら、私はとっても嬉しいよ。
この手紙を拾った君が、今何をしているのか私にはわからない。けれど、私は君が歩む人生を知っている。
これはね、君にどうしても伝えたいことがあって書いた手紙。君のためにも、今少しだけ貴重な時間をください。
まず1つ目。もう手遅れかもしれないけど、食べ過ぎには気をつけて欲しいこと。君はもう既に他の子よりもふっくらしていると思うんだけど、食事の量を変えないとこの体型は今になるまでずっと変わらないし、体重もどんどん増えていくことになる。
美味しいものを食べるのが幸せだということはとてもよく分かるけど、君がこれ以上太りたくないならもう少しだけ食べるのを我慢してみてほしい。君は今何人前ものご飯を食べていると思って。
2つ目。準備は前もってできるだけきちんとしておいてほしいこと。例えば学校の用意を前日に済ませておくとか、持っていくものを玄関先に置いておくとかでも良い。面倒だと思うかもしれないけど、これをしっかりしないと痛い目を見るのは自分。
事実、忘れ物も遅刻も沢山したし、親にも何度も叱られた。この癖さえつけておけば、社会人になっても君が苦しむことはきっとないはず。備えあれば憂いなしという言葉もあるからね。
3つ目。自分の意見は尊重して欲しいこと。君は結構周りに流されやすいと思う。本当はこう思っていても、周りの声や空気に呑まれてそっちに合わせることも多いだろう。でもそれ、辛くないだろうか?
君には自分の意見を言える勇気を持って欲しい。君はしっかり者だから、誰かを不快にするような事は言うはずがない。周りも声を上げているのだから、君も自分の思うことをはっきり言っていくようにしてほしい。
4つ目。君の好きなことを大事にしてほしいこと。君は今何が好きだろうか?プリキュア?ボーカロイド?それとも宇宙?何でも構わない。絵を描くことや歌うことも好きだろう。とにかく、君が今一番好きなことやものを、何よりも大事にして欲しいんだ。
君は黙ってても勉強を一生懸命頑張るだろうし、授業だって1度も寝ずに受けるだろう。ルールだって必ず守って、誰にだって優しくする。そんな君だからこそ、もっと自分の好きなこと、好きなものを好きにやってほしい。
君が好きなものを尊重すれば、おのずと同じ仲間が集まってくるものだ。君がわざわざ違う世界に馴染もうとしなくていい。君が好きな世界を作って、自分らしさを、そして同志を沢山作っていってほしい。
そして5つ目。これが1番大事で、いちばん伝えたいこと。それは、絶対に無理だけはして欲しくないということ。
君はとにかく頑張り屋さんだ。ピアノも、勉強も、絵を描くことも、激励と叱咤を繰り返されながら何年も何年も努力してきた。そして何よりも、周囲にとって常に「良い子」であるために、どんなに辛い環境でも、自分を押し殺してでも生き抜いてきた。
でもそれが今の私の人生における最大の後悔。私は頑張りすぎておかしくなっていった。ルールに縛られ、ちょっとでもはみ出せばダメと決めつけた。誰かが叱られていると自分のせいだと思い込み何度も自分の心を傷つけた。
いつしか私は自分が見えなくなっていった。志望校も今思えば自分の意思で決めてなかったし、良い成績も自分のためじゃなくて親や先生のために取ったものだった。自分じゃない。全部他人のため。私は透明人間だった。
そしてある日その心は壊れて、私は動けなくなってしまった。そこで初めて周囲も気づいて、病院に行って薬を貰って落ち着きを取り戻したけれど、私の歪んだ思考は未だに治ることなく続いている。
長くなってしまったけれど、簡単に言えば私は無理をしすぎて壊れてしまったんだ。私自身の人格を壊してしまったんだ。何と恐ろしいことだろう。君はこの話を聞いてどう思うだろうか。「そんな訳...」と思うか。それとも、「絶対に嫌だ」と思ったか。
いずれにせよ、君には1つ教えておきたい。
それは、この世界は広くて、逃げ道ならいくらでもあるということ。君は知らないだろうが、この世の中には不登校になった子供たちが沢山いる。それは何も悪いことじゃない。むしろそれは命を守る最後の選択なのだ。
君がもし今置かれている環境が嫌で逃げ出したいのなら、逃げても全く損は無いと思う。通信制でも、夜間でも、君が学べる場所はとことん存在する。もしもっと学びたいと思うのなら、整った環境で学んだ方が君の身の為になるはずだ。
第一、私は今休学しているし、もう復学する気もない。それどころか今になって、この人生は自分のためにあるというごくごく当たり前の事を知ったのだ。だからどうか君には今からでも、自分の人生をもっと彩りあるものにしてほしい。
そして、もう1つだけ。
今の君の親は君自身の本当の気持ちを何も知らない。君は強いし、絶対大丈夫だと思い込んでいる。そして心療内科のこともあまり快く思っていない。
だから2人に藪から棒にこの話をしたとしても、きっとまともに相手にはしてくれないだろう。
でも決して間違わないで欲しい。2人はとても優しくて、君のことを常に第一に考えてくれている。君が本当に心が辛いということを、心の底から叫んだなら、2人は必ず君を救い出してくれるはずだ。
だから2人の事は最後まで信用してあげてほしい。そして何より、ずっとずっと大好きな存在として、大切にしてあげて欲しい。家族は何にも代えられないものだ。それを絶対、忘れないで欲しい。
以上が、今の私から伝えたいこと。
少し長くて難しかったかもしれないけれど、これは君が私より幸せになってほしいと思ってしたためたもの。きっと届くことはないけれど、もしも届いた時、君がこれを見て、少しでも将来に希望を見出してくれれば嬉しいと思う。
最後に。
君は悪い子なんかじゃない。わがままなんかじゃない。君はもっと君らしくなっていい。ありのままの君でいい。強さも、弱さも、君だけのもの。未来の可能性は無限大で、君が君だけの道を切り開いていく。君が経験してきた全てが、君を形作るストーリーになる。
血も、汗も、涙も、流すだけ流していい。弱音だっていくらでも吐けばいい。辛い時は誰かの胸で泣けばいい。そうして君は必ず強くなっていく。でも、笑顔だけはいつも忘れないで。君の笑顔は、誰かを幸せにするから。
そしてどうか、君は、私より幸せになってください。
大好きだよ。
20歳になった未来の君より。