一度だけ本当のことを話す。ここに書くことは他の誰にも言うことはない。言えば非難される。言えばしょうがないと言われる。
しょうがないと言われるから、ずっとずっと我慢していた。でも、もう限界だ。
私はずっと家族が欲しかった。でも家族にはしてもらえなかった。
最初に付き合った彼とは10年続いた。本当に心から好きだったし、この人以外にいないと思っていた。他の人とはとてもやっていけないと思っていたから、離れられなかった。いずれは結婚すると思っていた。
調子が狂ったのはいつのことか。彼は仕事を理由にあまり会えなくなった。その分、毎月お金をくれた。それで私はお金に困らずに生活できた。でも寂しかった。仕事だからしょうがないと言う言葉を飲み込んでいた。そしてだんだん身体的な接触も減っていった。それをせがむと断られると分かっていたから、強くねだれなかった。
20代後半になると周りはすでに結婚し始めていた。私もその流れに巻き込まれて焦った。なんとか一緒にいたい、結婚できるなら今の会社を辞めて長く一緒にいられるように別の会社に入ってもいい。思い切って打ち明けたら、薄々感じていた不安の通り、彼は離れていった。私のことは大事だけれど、自分は他の人とは一緒に暮らせないって。彼の病気のこと、家族の介護のこともあっての判断だった。私は一人で東京の雑踏に取り残された。
ひどい孤独で、うつ状態が続いていたが、頑張って婚活を始めた。毎週何人もの人にあった。お世辞を言って可愛いふりをして、明るく振る舞った。始めはたくさんの人が寄ってきたが、疲れが見えたり本性が出始めると、うまく行かなくなった。もう少し、もう少しと6年以上頑張り続けた。週末、好きでもない人とデートを重ねて、その度に落ち込んだ。どうすればうまくいくのか、見た目を磨いたり会話に気をつけたり、ありとあらゆることをした。でも、素が出るとみな去って言った。または私から相手を愛することができなかった。
次に付き合うことができたのは、30歳の頃。相手から告白されて付き合った。最初はそうでもなかったが、途中から好意を抱けるようになった。自分でもちゃんと人を愛せる。私は嬉しかった。そして今度こそ頑張ろうと思った。
相手はバツイチで子供がいた。奥さんとはある事件が元手で別れ、子供とも引き離された。事件の経緯を知っていたので、私は彼に同情した。だから、彼が奥さんと子供のことを思って、そのためになるような活動をしても応援していた。休日の大半をその活動に費やしたり、頑張るのも我慢した。養育費の支払いも自分が口を出すことではないと分かっていたから、何も言わなかった。活動はどんどんエスカレートして、仕事の他は全てそれに注ぎ込んでいた。あとは彼の母親の世話。
彼と結婚できるなら、全てゆるそう。そう思っていた。私もいずれ家族になれるのだから。彼と結婚の約束もした。
しかし寂しい気持ちは胸の奥に溜まり、出口を求めて何年も彷徨っていた。そしてある時、どうしてももういいかげん活動を辞めてくれと口にした。もういい加減、私のことを見て欲しかった。
彼は激昂した。私に暴力を振るった。
私は警察に相談しにいった。警察から彼まで連絡が入ると、彼は二度と私に連絡してこなくなった。
家のものも置きっぱなし。謝罪もなし。婚約破棄の手続きもなし。
私はただの恋人だから法的にも守られない。暴力を受けた後、ひどいうつ状態で入院することになった。
退院した私には深いPTSDの症状があって、外に出るのも働くにも苦労した。彼からの補償は何もなかった。
訴えることも考えたが、相手の経済状況から何も支払えないし、お金がかかるだけだと弁護士にも言われた。
彼の活動を知っていた人からも攻撃を受けた。弱い立場の人間だからって助けてもらえると思うなよ。と言われた。私は疲れ果てた。
ずっとずっと、家族が欲しかった。なのに、家族にしてもらえなかった。
家族のある人からはばかにされた。ここ数年は毎日なぜ結婚しないのか、子供が欲しくないのかと聞かれる。
事情を誰にも話せない。上部だけの話をしている。本当のことを言っても信じてもらえないし、また婚活しろと言われるだけだからだ。
もう疲れたよ。
家族が欲しいと思って何がいけないの。こんなにもこんなにも頑張ったよ。相手にも理解を示したよ。
自分の気持ちを我慢して寄り添ってきたよ。
なのに、今はこれ。世界は家族で溢れている。私はずっと蚊帳の外。頼れる肉親もいない。
家族を持っている人に「うちの家族って本当に仲がいいんだ」と言う話をされた。
そうだね、いつも世界は私以外を中心に回る。私を除いて。私は世界のどこにもいなかった。
だからかな、行き場のない気持ちがいつまでもいつまでも残響している。寂しいよ、寂しいって言いたかった。
家族になれたら、この寂しさも消えていたのかな。
寂しさは私のもの。いつまでもいつまでもついてくる。残響のように。どことも知れない過去から、ずっと聞こえてくる。