親友が結婚する。
腐りきったメンタルの中に意図せず残っていたもの。
親友。
ある芸人は言った。
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お前に困ったことがあったら、必ず助けてやる。俺が困ったときはお前が助けてくれ。俺たち友達だよな。
こんなの友情じゃない。
お前が困ったら、俺はいつでも助ける。だけど、俺が困ったときは、俺は絶対にお前の前には現れない。
これが友情だ。
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無意識に行動に移していた。
顔を合わせる時はなるべく楽しい気分でいたい。
決してお互い輝いているとは言えなかった青春時代。
お互い学んだ。
私は捨てる事を選んだ。
あいつは探す事を選んだ。
私は好きに生きつつも、あいつの健全な生活に感心していた。
見本にしようと思わなかったが尊敬していた。
来るかどうか解らない未来を見る事も、叶うかどうか解らない希望に備える事も。
失うものを望まない私には眩しかった。
同時に私は、いざ実現した現実を目の当たりにした時に平常心を保てる程、私の心が正常に動いているのかを懸念していた。
自覚してない欲求が目覚めるのではないか。
もしそうなら自分に嘘をついて生きていた過去を受け止められないのではないか。
本当に狂ってしまうのではないか。
結果、心から喜ぶ事が出来た。
良かった、こいつとはちゃんと友達できてた。
あいつは私を話題にする時は「相棒」と言ってくれている。
私はあいつを話題にする時は「相方」と言う。
別に頻繁に会う訳ではない。
先日会ったのが2年振りだ。
そんなもんだ。
お互い今のところ間違ってないんだ。
でも私はあいつを尊敬している。
私に出来なかった事をやっている。
でも嫉妬心なんて微塵も感じない。
「お前もそんなタイミングが来るかもな」
「そん時はそん時や」
お互いを否定しない。
無理に肯定もしない。
そんな距離感を作ってくれた数十年。
私が過去に綴った記録は純然たる本心だ。
今もそう思って生きている。
それが単なる現実逃避ではないと確信できた瞬間でもあった。
正誤の話ではなく、虚言ではなかった。
充分だ。
腐っているようで腐ってない。
こうして笑顔で唯一の親友に祝福の気持ちを向けられる。
本当に幸せを願える。
しっかり自分と切り離して考える事ができる。
ネガティブな世界を見る事が多かった私に、見覚えのないポジティブな概念を自分本位に無理矢理塗りたくってくるような、私のなりたくない人間に無意識に近づいているのではないかという恐怖があった。
ネガティブを否定し、ポジティブを押し付けるように、
ポジティブを否定し、ネガティブを押し付ける人間に。
数年振りに鏡と向き合う。
うん、大丈夫だ。
相も変わらず見るに耐えない顔面だが、満たされた表情をしている。
自分に嘘はなかった。
親友は幸せを掴んだ。
これ程視界が晴れる出来事があろうか。
こんな異端児と関係を続けてくれる程の器だ。
手前味噌だが縁を結んだお相手さんも幸せだわ。
あいつに私はどう映ってるんだろうな。
羨ましがられても困るけど。
お互い助けたいけど助けられたくない。
お互い尊敬してるけど羨ましがられたくない。
求めてないけど与える。
友情も愛情も、そんなノリでいいんじゃないか?
そして適当に時期を見て現状報告を兼ねて酒を交わす。
愚痴でも惚気でも満足するまで話せ。
それを肴に酒が飲めるなら、自分の状況より足元ふらつかせながら自分の溜まった闇より先にゲロ吐いてやるよ。
幸せにな。
私に結婚したいって思わせてみな。
私は相当固いぞ?
相当幸せになってもらわないとな。
私も全力で貫くけど、もし私が負けたらしっかり背中は見せてもらうからな。
おめでとうな。