満開だった桜は、脳に残り続ける。たとえその桜が儚く散ったとしても、満開の姿だけしか記憶にない。散ったことなど覚えていられない。その隙は美しい思い出で再び埋められる。
なのに、人間は死に際がハッキリと。楽しい思い出も色が抜け、いつしかそれすらも崩れ去る。
桜と同じように満開な人生だったら、私も“満開”で終わることができるのだろうか。
都合の良い海馬が、こんなにも憎たらしい。
そんなことを考えながら、酒を飲み干す。酒に溺れる人生なんて、満開どころか枯れ果てている。わかりきったことだろうに、なぜか期待している自分がいた。
満杯になった腹をさすれば、ひとときの幸福感を味わえる。この記憶も、満開と共に残り続けてくれないかな。そうすればまた明日、酒を空けずに済むというのに。
今日も枯木な自分にカンパイ。そう言って、残りの酒を流し込んだ。