私には、幼馴染がいる。
同い年で、誕生日も近くて、生まれた病院から同じ。
家も近いし、幼稚園も一緒。
学校のクラスもなぜか同じになることが多い。
つまり、生粋の幼馴染で、腐れ縁。
だけど、私はあの人がとても苦手。
どうしても好きになれない。
あの人にもつらい事情があるのは知ってる。
それでも、ゆっくりと狂っていくあの人に、私は耐えられなかった。
だけど、あの人を救えなかった罪悪感が、私を邪魔する。
見捨てたいのに、完全に縁を切りたいのに、それができない。
ずるずると曖昧な関係を引きずってしまう。
もし、私があの人を見捨てたら、本当にあの人は一人になってしまう。
見かけは顔が広い人気者に見えても、それが表面だけだって知ってる。
みんなに嫌われてることも、知ってる。
だって、あんなに歪んでしまったら、誰も相手にしてくれないもの。
だから、見捨てられない。
あの人はきっと、私を信じてるから。
私だけは自分から離れることはないって、信じてるから。
どれだけ傷つけても、見捨てないでいてくれるって、安心してるから。
でも、あの人から残酷な言葉を浴びるたび、私の心は傷ついていく。
あの人の言葉はどんどん酷くなって、私の心の傷はどんどん深くなる。
ねえ、わたし、もう耐えられないよ。
心が壊れちゃう。
離れて、あなたの信頼を壊しそうになる。
どうして私たちの関係はこんなにも歪んでしまったの?
私はいつまで耐えたらいいの?
昨日のこと。
あの人と久しぶりに会った。
あの人は相変わらず騒がしくて、人に耳を貸さなくて、意地悪だった。
やっぱり、あの人は変わってなかった。
会うたびに酷くなっていくあの人に、私は逃げたくなってしまった。
あの人が、笑いながら言った。
「同じ学校の人が、自殺したんだって!」
何も、言えなかった。
「その人すごく真面目でさあ、あ、そうそう、ちょうど○○(私)みたいな性格なんだよねー!」
私は、ちゃんと笑えてたかな。
いつも通りに、振る舞えてたかな。
心の中の感情の嵐を、隠せてたかな。
話を聞けば聞くほど、私と似てた。
違うのは、その人は自殺に成功して、私は失敗したことだけ。
それを面白おかしく話して笑うあの人が、怪物に見えた。
こわい
くやしい
命をかける程の苦しみを、あの人は嘲笑った。
命を、あの人は軽んじた。
いろんな感情がぐちゃぐちゃになりすぎて、逆に静かになって、この世界を離れた場所から見てるような、そんな感覚がした。
だけど、その感情の中に怒りはなかった。
それは確か。
私はあの人に怒ってない。
こんなにも歪んでしまったあの人に、心が痛んだだけ。
これが、あの人が私に執着する原因なのかもしれないな。
どうしたって私は、あの人のサンドバッグを受け入れてしまうもの。
それがあの人にとっていいことだとは思わない。
あの人のことを本当に考えるのなら、更生するためにもっと別のことをしないといけないのは分かってる。
でも、私はあの人が怖いの。
とても短気で暴力的で、地雷のような人。
下手に働きかけて、自分がこれ以上傷つくのが耐えられないの。
あの人に、首を絞められたことがある。
頭がぼーっとして、世界がぐるぐる回って、力が入らなくなった。
あの時別の人が通りかからなければ、私は死んでいたと思う。
私は、どうすればいいのかな。
縁を切ってしまいたいけれど、どうしてもあの人のその後が気がかりになってしまうの。
私が縁を切ってしまえば、あの人は本当に独りだ。
あの人は、生き方を知らない。
ただひたすらに、堕ちてしまうだろう。
私の一つの決断が、あの人の人生を壊してしまう。
私にはその勇気がないの。
神様。
あの人に、光をください。
私が、安心してあの人の手を離せるように。
あの人が、一人で生きていけるように。