『あ、今日も来たのね!』
「来させられたんだって…」
『細かいことはいいじゃない。さぁ、今日も私達について知ってもらうわ!』
だんだんこの世界の翻訳技術が上がっているのが分かる。運営、頑張ってんだな。
『とはいえ、毎日話していると、話題が無いわね。』
「もう二週間近く話してるもんな。」
『そうだわ、瑠唯。あなたがなにか話してよ。』
「え…俺も話題ないし。」
無茶振りにもほどがある。こちとら、カンペないと喋れねえんだぞ?
それでも、アルビナはどんどん話題の案を出してゆく。
『学校のこと、家族のこと、友人のこと…何でも良いのよ。』
「友人、」
その一言で、設楽先生との会話がフラッシュバックする。
明來、大丈夫だろうか。俺がこの世界にいる間、何か変化はないだろうか。
ずっと隠していた不安が、急速に体を蝕む。
あぁクソ、こいつのことなんて1mmも信頼してないのに。
「…俺の相談、乗ってほしい。親友の、明來のこと。」
『明來って子、色々あったのね。』
「うん。」
抱えていた全てを言葉にしたことで、言葉にできない虚無感に襲われる。なんだか、第三者的に自分を見ている感じがした。
『まあ、きっと大丈夫よ。多少の失敗は、人を成長させるって言うじゃない。』
「…は?」
幽体離脱が戻るときの感覚がわかった気がする。と同時に、ふつふつと怒りが湧いてくる。
「それ、正気で言ってる?」
『もちろん。だって、非行に走った人は絶対に更生できるって、本に書いてあったわ。』
「…明來のこれは、非行じゃない。」
『分かっているわよ、ものの例えじゃない。とにかく、人は苦しんでこそ強く…』
「綺麗事ばっか言ってんじゃねぇよ。」
怒鳴りつけてやりたいのに、冷静な声しか出ない。世の大人に矯正された自分が嫌になる。
「なんだよ、明來は強くなるために犯罪に巻き込まれなきゃいけないのかよ。
いいか。あんたの言う「本」を書くようなお偉いさんはな、自分のせいで挫折したんだよ。でも、明來は、明來は…。
、とにかく、明來のはそんな安っぽい挫折じゃねえんだよ。」
『…うるさい!』
感情に任せて―というほど感情は表に出ていないが―喋っていると、突然アルビナが叫んだ。
『私はね、戦争でいつ死ぬか分かんないの!今だって防空壕の中!
でもね、私は負けたくなかったし、強く在りたかったから、この苦しみは強さに変わるって言い聞かせてたのよ!
それを真っ向から否定して…酷いことをしているっていう自覚を持ってよ!』
「あんたの言ってることは分かる。でも、それを押し売りすんなって言ってんだよ。」
『押し売りじゃないわよ!あなたが意見を求めたんでしょ!?
大体ね、あなたも恵まれてるように見えるのよ!穏やかな街、豊かな教育、変わらぬ家族!それなのに不幸ぶらないで!』
あーもううるさい。一言一句が俺の気に障るのだ。
大体、こうやって言い争ってる時間は無駄でしかないのだ。今すぐ明來が大丈夫か、確認しなければ。
「…俺帰る。あんたと話してても時間の無駄。」
『ちょっと!』
気がつくと、自分の部屋に居た。
何処か心にぽっかり穴が空いたような気がした。
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