ひきこもるということについて考えてみる。
じっと家に潜み、世界との関係を断つことで、自分の世界を再構築して守護する。
外界には敵だらけ。恐ろしい現実に対して、私の取れる選択肢はとうに限られている。
夜闇に紛れ、静まり返った街でこっそりと出歩き、深く呼吸をする。
この、風に紛れて鼻を抜ける疲れ切った人々の匂いは、今日も血肉を食らうために、懸命に働いた汗の香りだろうか。
まあそんな連中の事だ、私を見つけるや否やすぐさま襲い掛かってくることだろう。
私は社会とは馴染めない。社会が私を否定する。私が私であることを私しか認めてあげられないのであるから、仕方がない。
関係を断つということは、そういうことなのだろう。
寂しい。
すべてを拒絶して生きることにどんな意味があるのだろうか。本当は、もっと色々なことをやってみたいのに。
スマホを見る。じっと見る。画面に広がる数々のアプリをぼんやりと眺める。いったいなぜ、こんなにもあるのだろうか。
外界と断とうとすればするほどに、使わないようなものが増えている。
世の中が、私を否定したくせに私が世の中を必要としているようで、なんとも中途半端なことしかしておらず、
無力感を覚える。
コンビニが見える。見慣れたコンビニ。便利である事よりも、足を運んだ先に光がともっていることに、幾ばくかの安心がこみあげてくる。
だからついつい大した用もないのに、足がむく。気が付けば、甘い砂糖漬けの飲み物を手にして、レジに出す。
セルフ化はとても助かった。でも、ちょっとだけ。ほんの時たま、店員の前に品を差し出す。会話は特にしない。
他愛ない一瞬だが、他人との唯一の接点。直接対面して、やり取りをする。そんな当たり前のことが出来ることに、ほんのわずかに嬉しさがこみ上げている。
また風が吹いている。ふと空を見れば、月明かりが見えたと思えば、足の速い雲達がぐんぐんと泳いでいる。まるで灰色の狼だ。
狼。日本狼。
かつて日本にいたそれは、どんな最後を迎えたのだろうか。彼らは狼だった。決して犬にはならなかった。強いやつらだ。だから消えてしまった。人間様が、社会様が、世の中様が、彼らと共存する道を選ばなかったからだ。
私も、私に対しても、きっとそういうことなのだろう。でも残念なことに、私は狼にはなれそうにない。彼らは最後まで子孫を残すための努力を惜しまなかったことだろう。最後の一頭になったとしても、それを認識することもなく、途方もない山の中を駆け回り、パートナーを探し求め、未来を諦めなかったことだろう。私は狼にはなれなかった。私は家にいる。家の小さな部屋でじっと外界を見つめている。板切れに向かって指を動かし、板切れを見つめては、世界を知った気になって口元だけを動かしている。時折、黒い画面に映り込む自分の姿を見ては、また大層な顔つきでいらっしゃるとぼやいている。
何のために、この板切れにしがみついているのだろうか。この小さな甲羅の中には、どれだけ世界との接点を構築しても、私からそこに向けて何かを言うことはとても恐ろしいことのように思えてならない。
ずっとこのままあの流れる空のように、漂う雲のように、感じぬままぷかぷかと浮いてみたいと思う。
外界は敵だらけ。そんな風に決めついて、私を押し通す生き方に、いつか終止符を。
少なくとも、店員の彼は、ただの雲のように接して私を傷つけなかった。
甲羅にこもる。家にこもる。そのために私は生きているわけではないはずだと、いつか信じられる日がきたら、いいな。
私の世界が、誰かの世界と繋がって、そのことを認められたら、人になれるのだろうか。
人の姿をした、亀。私の在り方は、大体そんな感じなのだろう。 人の足は、大層速いのである。
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