真夏の冷房の効いたリビングが好き。
教室の熱気とか、他よりほんのり涼しい音楽室と図書室とか。生き返った気持ちになる。
お気に入りの水玉模様のノースリーブ。
学校のトイレの鏡で何度も眺めては、ニンマリした。
濡れたハンカチがポケットの中で冷たくて、ちょっぴり不快。
太陽が雲に隠れて、一瞬暗くなる教室とか。
黒光りする実験室の机とか。
夏休み前に持って帰る通知表や図工でつくった変な作品、学校に置いてた朝顔。
宿題をかたづけるためにキンキンに冷やした自分の部屋とか
飲んだ後喉がもやもやするカルピスとか。
半分こしたチューペット。
冷蔵庫の独特で、無機質なあの匂い。
食べ過ぎて飽きた、冷やし中華。
お昼のドラマ。キッズウォー。いつつごちゃん。
それから、虹のかなたへ。だったかな?
プールカード。家から着ていく水着の、あの塩素と洗剤の混ざったニオイ。
学校に着く頃には色の濃くなっているスクール水着。
身体に巻きつけるゴムの伸びたタオル。
ビーチサンダルにまとわりつく校庭の砂。
遠くに響く笛の音。
更衣室の埃っぽい匂い。鼻の奥がツーンとするような。汗で服が張り付いて大変な着替え。
ちょっと、お願い、なんて、めくれたTシャツを友達になおしてもらったり。
冷たすぎる水の中。
ゴミを避けながら歩く。
先生、こっちも網ですくって、なんて思うけど、水面に浮かぶゴミは底知らず。で、途中で開き直る。
目で追う好きな人。濡れた髪の毛がまた素敵。ゴーグルの跡のついた顔。程よく日焼けした肌が好きだったよ。
ぐるぐる回って、何本も泳いで、たまには検定なんてして、合格のしるしとして先生に腕につけてもらう輪ゴムが嬉しかった。
なんてこともない輪ゴムなのに。
学校の畑の様子を見届けてから、
行きより重くなったプールバッグをぶらさげて、友達とはしゃぎながら家まで帰る。
普通なら10分くらいの帰路を、倍以上の時間をかけて帰ったりしたね。
夏休み中に友達と自転車でむかう地域の図書館もまた特別なものだった。
暑い日差しの中から一気に解放される館内。
少し厳かな雰囲気に、自分がちょっぴり大人になった気がした。
子どもスペースで寝転がって、本を開く。友達が持ってきてくれたマンガなんかもそこで読んだり。
自分より小さい子どもがお母さんとやってきて、すっかり自分はお姉さん気分。
帰り際、紙コップの自動販売機で一杯飲むのがちょっとした贅沢だった。
レモンソーダをロビーでイッキ。最高の気分。さあ、これから暑い中を自転車でまた走るぞ!
バイバ〜イ!
友達と別れる時はいつも夕暮れ。
赤いような、オレンジのような、ピンクっぽいような、そんな暮れかけの中を帰っていく。
帰ったら宿題やらなきゃな、なんて考えてちょっとゆううつ。
ただいま〜!暑かった!
真っ先にむかうのは冷蔵庫。コップを出して、作り置きの麦茶をゴクゴク。
夏祭りは特別な時間。
浴衣を早く着たくて着たくて、朝起きてからずっと夕方が待ち遠しい。
サザエさんを見ながらの、おめかしの時間。
まだほの明るい空の下、灯りのともったちょうちんに、並ぶ屋台。
スーパーボール救いに200円のくじ引き。全てが特別で、嬉しくて、炭の風味のよく効いた焼き鳥は、これまた美味しくて美味しくて。
あ〜◯◯ちゃん!
自然と人が集まっていく。
好きな人の姿を探して、いなくてちょっぴりブルー。
たくさんの人の笑顔。白いタオルをハチマキにした、屋台のおじさんの汗の浮かんだ顔。
流れる氷川きよし。盆踊りをするおばちゃん達のお澄ましした顔。
全てがお祭りを彩っていた。
お祭りに飽きて、いつものアスレチックで遊びだす男子達。
腕にスーパーボールの入った袋をぶらさげたまま、浴衣を引きずりながら、自分も混ざって遊ぶ。
暗くてよく見えない遊具は、いつもとは少し違って、知らない遊園地にでも来たよう。
遠目に見るやぐらとお祭りの喧騒は、やっぱり綺麗だった。
お盆にはお父さんの運転する車でおばあちゃん家にむかう。
乗り込んだ時は暑くて車臭くて地獄のような車内。クーラーがききはじめればそこは快適なベッド。
好きな時にコンビニで買ったお菓子を食べて、炭酸飲料を飲んで、お姉ちゃんとケンカにもなりながら、最後にはやっぱり二人仲良く並んで眠る。
揺れる車体は、前でお父さんとお母さんの喋る声は、なんだか心地がよくて。
起こされた時にはもうおばあちゃん家。外は暗くなっていた。
よく来たね。大きくなったね。そう言って玄関先で抱きしめてくれるおばあちゃん。床屋のおばあちゃんの匂い、結構好きだった。
なぜかいつも、ほんのり雨の匂いのする、お花がいっぱいの庭。さみしくも、胸がキューっとなる匂いだった。
お線香をあげて、柱に傷をつけて、5センチも伸びた!とかやって。
おじいちゃんのいる掘りごたつに足を入れて、みんなで夕飯を食べる。
クーラーなんていれなくても、涼しい田舎。とってもいいところ。
父方のおばあちゃん家は母方のおばあちゃん家から、さらに車で二時間。
盆地で、東京よりももっと暑い。
夜になると玄関先で花火をやる。
本当に山の中で、熊も出るんだぞって言われてたから、ちょっと怖かった。
花火をやりながら、熊を恐れてキョロキョロする。
ある夜お父さんと散歩して、見上げた星空が綺麗だった。流れ星を探して、首が痛くなった。
ここがお父さんの通った小学校だぞって、指差されたけど、暗くてよく分からなかった。
本当に田舎。朝、早起きすると、おばあちゃんが近所の売店に連れてってくれた。田舎の匂いのする、狭くてあったかな店内。お菓子やなぜかシャーペンも買ってもらって嬉しかった。
賞味期限の危ないものも売っていて、子どもながらにいいのか?なんてお店が心配になったり。
おじいちゃんは畑に連れてってくれて、野菜のこととか、花の名前とか、色々教えてくれた。ゆうがおっていう太くてながーい野菜を初めて見たときは衝撃を受けた。
畑を飛ぶ蜂やアブが怖くて、でもそんなのには全然動じないおじいちゃんを見て、さすがだな、と思った。
帰る日は本当にさみしくて、お姉ちゃんとほろほろ泣いた。
家に着くと、いつもは感じない我が家の匂い。自分家ってこんな匂いがするんだーなんて感心する。
遊び疲れて、お風呂も入らずに寝てしまう。翌日、旅行バッグを片づけるのが面倒だった。
その後は一瞬で流れてしまう夏休み。
気がつくと夏休み最終日で、自由研究も必死に終わらせた。
夏休みが終わるのが嫌で嫌でたまらないのに、いざ学校が始まると学校が楽しくてたまらない。
もちろん、テストや宿題は憎たらしいものだったけど。
好きな友達、好きな人と当然のように会える日々が、嬉しかった。
9月1日の、友達とのお土産交換も楽しかった。
ある時、好きな人からお土産いる?といわれて。
その時、初めて男の子からお土産をもらった。
嬉しくて嬉しくて、ランドセルの中で揺れるお土産の感触が嬉しくて、その日の帰り道はルンルンだった。
次の長期休みで、絶対お土産返すぞー!って。
たくさんの夏の思い出たち。これでもほんの一部。
好きだったもの。空気。
今年もまた夏が来ますね。
夏の始まりはなんだかわくわくする。
でも、あの頃とは違う自分と、環境。住む場所も変わってしまった。
毎日楽しかったあの頃に戻りたくなる。
思い出して胸が切なくなる。ノスタルジーってやつ?
なんであんなに綺麗な景色だったんだろう。
前を向いて、生きていかなきゃな。
過去を振り返るのが趣味すぎて、だめだな〜。
でも、忘れたくない。思い出してさみしくはなるけど、あの頃大事だった、綺麗だと思ったものは、ずっと、どこかで持っていたい。
だから、こんな長い文章になっちゃったけど、やっぱ書いてよかったな、って思う。
さーもっと綺麗なもの探しに、今日も明日も生きていこうか!
ほたる。