仕方がないのだ。
過去は変えられない。
兄のこと。
兄に見た目をなじられて育ったこと。
すれ違うたびに殴られたり蹴られたりしたこと。
大きくなる胸をバカにされて踏みつけられたこと。
顔の作りの何もかもが不細工のそれだと言われ続けたこと。
肌や髪に気を遣っているとそのトリートメントやクリームを捨てられ叩かれ無駄だと笑われたこと。
全部昔の話だ。
私が今着飾った人を見ると泣きそうになるのも、
顔を見られるのが嫌い前髪を伸ばすのも、
洋服や化粧品の売り場が怖いこと、
人とすれ違うこと事態が怖いこと、
全部、昔の話と繋げて「だから無理だ」と逃げたいだけ。
そうやって言い訳して避けて、
でもまたどこかで昔の話の壁にぶつかって逃げて、
私は勝手に人生を面白くなくしているだけ。
関係がないのだ。
私はもう自分の足で立てるのだから。
近しい人間にその過去を言われても困るだろうさ。
どうせ私はこれからも兄と会うときは会うのだから。
絶縁すればいいじゃない、
本当に嫌ならとっくにできているはず。
そう言われてもきっと私は縁を切らない。
私たち兄妹の仲を信じている人がいる以上には。
「他人に責任を押しつけているだけじゃない」
そう思いたいなら思えばいい。
私はきっと別に兄のあらゆることに耐えられるので。
信じている人が生きている間は、少なくとも。
案外大丈夫だ。
話半分に罵声も流せる。
殴られるのも無視していればいつの間にか終わってる。
蹴られるのもすれ違いざまだけだ。
そう考えると、私が大げさなだけなのだ。
私が大げさに受け止めて、勝手に様々なものを恐ろしがるようになっただけだ。
私が悲劇のヒロインになりたがっただけなんだろう。
書いてて馬鹿らしくなってきたな。
大して大変な人間ではないのだ。
自分の足で立てるし
支えなんてきっとなくてもどうにかなるし
きらきらした人や空間が怖いなんてただの甘ったれだ。
勝手に大層な過去を持っていると勘違いした馬鹿な女は、
早いところまともになれるよう努力しないといけない。
しょぼい過去を背負って、普通に歩いて、
勝手に積み上げた劣等感を鼻で笑って、
頭の中の隅に残った常識的な自分に応援をもらって、
努力して歩かなければならない。