だいすきだった先輩に振られました。真夜中の12時を回った頃それはゆっくりと訪れて、私たちはゆっくりと離れました。
あと4日ほどで私たちの共通点だった部活を引退してしまう先輩がストーリーでぽつりと呟いた「部活まだしていたかった」という一言に、先輩が私の先輩でいてくれる日々が脆く消え去ることを悲しいほどに感じて、指が勝手に先輩とのチャット画面をひらきました。最後にひとつお願いしてもいいですか、と打ち込んで、さんざん迷いつつどこか冷静になっている自分を見つめながら送信すると、40秒経つか経たないかのうちに「どうぞ?」と返信が帰ってきました。あんなに好きだったのに、あんなに先輩を愛しく思った日々がこんなに簡単に終わるのかと思いつつ、入部したときからずっと惹かれていたこと、先輩の素敵なところをたくさん知ってしまった旨を短くまとめて送りました。これはもしかしたら夢かもしれないと思ったのを覚えています。
2、3分後、一言先輩からメッセージが送られてきました。「ネタ?」まさか。先輩らしいなと思いつつ違いますよと返しました。その後先輩のチャット欄には入力中を示す表示が10分ほど続いていて、その後私と先輩の関係がそれ以上になる可能性はなくなりました。勇気を出して伝えてくれてすごく嬉しいということ。だけど、部活の同じパートの後輩としてみてしまっているから、恋愛の一線は越えられないということ。私が努力していたことはきちんと知っていて、これからの成長に期待しているということ。
すべてが私のだいすきな先輩の言葉で、全て残酷で美しい言葉ということが、その画面から溢れる光に伴って私の眼球まで届きました。涙が出るより、放心するより先に、いつも少し素っ気なかった先輩が私に宛ててなにか伝えようとしてくれた事実がどうしようもなく尊く思えて、その行き場のない思いを全部画面に打ち込みました。10数行にわたる私と先輩のやりとりは色恋の感情をとびこえて、お互いのこれからの人生のこと、私と先輩が部活という場を通して会うことができたということについて話して、先輩はそれに対して何度も何度もありがとう、ありがとうね、と繰り返していました。私は真っ暗な部屋の中で先輩が綴った言葉を見て、ああ、この人は本当になんて優しくて慈悲深いんだろう、と思いながら、私はじゃあどうすればよかったの?と強く思いました。私が自分のしたいと思ったことを諦めて、部活もパートも違う後輩として出会えていれば、結果は違ったのか、もしあとほんの少し早く生まれていれば、あとほんの少しあなたの好みの外見だったら、性別が違えば、あなたと一緒にいられたんですかと、眠りに落ちながら思いました。先輩の恋人になりたかったわけじゃない、私はただあなたとの共通点がなくなっても一緒にいる手段が欲しかっただけ、とひとり胸の中で呟いて、私と先輩はそれぞれの朝を迎えました。
私が次に部活に出るのは明後日の予定です。私はそのとき、先輩と、先輩と過ごした音楽室を見て、果たしてどうするのでしょう。先輩も私も遅かれ早かれこの音楽室を出ていって、別々の人生を歩み、いつかお互いのことなど忘れてゆくとしても、この音楽室には、決して部活という括りを抜け出すことはできなかった私と先輩の今の姿が、永遠に残り続けると思うのです。