夢の話。
水の中に花がゆれている。
深い色の土と
澄んだ沼に沈んだ緑、
風とお日さまの匂いしかない場所。
木造二階建、
たよりない階段をのぼった先に
畳の薄暗い部屋があって、
そこに人がひとりいた。
呼吸のしかたと目線の置きかた、
まとう温度を覚えている。
あまりにも柔らかく話すから
声とは愛情なのだと知った。
肚、肺、喉、唇、
一歩引いた佇まいで、
深いところにあったものを
あなたはそっと差し出した。
どうしてもう会えないのだろう。
柱に掛けられていた
薄紙の日めくりカレンダーが
はためいて騒ぐのも
まだ聞こえる。