7月の終わり、帰省で両親から夏風邪をもらった。
それはしつこく治らずに社会人の夏休み1週間を潰しやがった。
恋人とプールの予定も立てていて、お祭りにだって行きたかったのに。
そこから今日までずっと咳が治らない。
その夏風邪は特段珍しい症状もなかった。
流行病の検査をしても陰性だった。
なのに咳だけ長引くから、診察を受けたら咳喘息とのことだった。
2ヶ月治療を続けても咳は治らなかった。
お次は上咽頭炎の診断を受けた。
その治療はかなり痛いもので平凡に生きてきた自分にとって人生で1、2番を争う痛さだった。
それでもこんな地獄が終わるならと藁にもすがる思いで通っている。
しかし3度目の治療後も咳は悪化の一途を辿っている。
自分にはすごくかわいい彼女がいる。
大好きで大好きで仕方ない彼女がいる。
彼女は年下で、今年ハタチで、同棲している。
自分は彼女の20歳の夏と秋、そして冬まで奪おうとしている。
体調が万全でないせいでまともに出かけることはおろか、1日たりとも咳のしない日はない。
ましてや自分がポンコツであるせいでいろいろなことが上手くできず、彼女に頼り切りになってしまっている。
夜中咳き込んでは起こし、彼女は寝不足の日々が続く。
体に良い食材を調べ料理を作ってくれたり、埃のせいではないかと熱心に掃除してくれたり、夜中咳が酷くなる寝相をとる自分を転がして咳が出ないようしてくれたり、それはもうひたすらに看病してくれた。
彼女は疲弊している。
とうに限界を超えている。
彼女はもう、ごめんと、頑張ると、治すから、という言葉は聞きたくないというから、海へ手紙を流す。
間違っても拾ってしまいませんように。
もし拾ってしまったら続きは読まずにもう一度投げ捨ててください。
こんな時まで面倒をかけてさーせん。
彼女へ
俺がこんなんだから長く辛い思いさせちゃったな。
心の底からやれることやってるつもりなんだけどさ、神様はまだ認めてくれないみたいだわ。
なあもう俺の世話なんてしなくていいんだぜ。
若いんだからさ、もっとたくさん楽しいことだってきっと外の世界にはあるんだぜ。
こないだ別れよって言ったとき、それはあんたのメンタルが弱ってるから励ましてほしいだけだろと相手にしてくんなかったよね。
ありがとうね、優しくしてくれて。
本当は、そうなんだ励まして欲しいだけだったんだって甘えたいんだけどさ。
こんなぼろぼろのバカ人間といつか幸せになれたとしても、いつ幸せになれるかなんてわかんないだろ。
でも本気で幸せにしたかったし今でも幸せにしたいんだぜ。
君を一番幸せにする方法が君の人生から俺を取り除くっていう方法だっただけで。
俺からはもうその話はしないよ、君からその話が出てくるまで。
あのさ、君に届かない手紙なら本心だって信じてくれるかなあ。
俺、本当に君のことが大好きだよ。
どんなに喧嘩してもどんな言葉を言われてもどんな態度を取られても全部理由があるって知ってるから、その理由の全部は分かんなくても大切にしたい。
君にはもっと笑ってて欲しいよ。
俺よりずっと丈夫で、陽気な、未来の明るそうな男と幸せになって欲しいよ。
なんで俺なんかが君のこと好きになっちゃって両想いになれちゃったんだろうって運命を恨んだりしているよ。
こんな止むのかもわからん雨で濡れ犬になんのは俺だけでいいのになあ。
神様は残酷なことするなあ。
世界一愛してる人が出来た途端に掌返しするんだから。
出会えてよかったよ、出会ってごめん。
君は好きで隣にいるって言ってくれるけどごめん。全部俺が悪いわ、全部とか簡単に言うなと怒られそうだけど、ごめんな。
もしこの雨が止む日が来るなら、その日から世界で一番幸せにし続けると約束するよ。
別の道を行くのならどうか幸せになって、誰よりも幸せになって、早くこの思い出を若気の至りと笑ってください。ここで待っているから、もしも何か困ったらいつでも帰っておいで。あわよくばもう一回幸せになろう。
でも彼女、俺はまだまだ諦めてないよ。
明日はもっとよい日になりますように。
愛してるよ、いつも!