十五歳の初めての努力

この十五年間、ずーっとだらだらなんとなぁく生きてきた。
体操教室に七年間通ったけれど、逆上がりは一度もできなかった。
ピアノも十年くらい習ってたけれど、そこまで上達はしなかった。
英会話教室にも通っていたけど、二年くらいで辞めた。
算数と英語が苦手だったからって通った個人塾も二年しか続かなかったし、中学生になるからその準備って言って通った塾は一年しか続かなかった。
小学校の頃からテストは平均か、それよりちょい下。
中学は何故か公立なのに私立みたいにレベルが高くて、平均以下なんて当たり前だった。
だけど、何も努力はしなかった。
「努力」っていう名前の当たり前のことしかしてなかった。
テストがあるから課題をやる。発表会のためにピアノを練習する。怒られないために塾の宿題をする。
中学二年生の秋に海外に引っ越して、日本人学校に通っていた時もなんにも努力はしなかった。
なんとなぁく授業受けて、帰って、宿題して、あとは動画を見る。
無意味な日々と言っても過言じゃなかった。毎日毎日、それの繰り返しだったから。
そんなどうしようもない人間だった。

今年の九月から、インターナショナルスクールに転入した。
英語なんてまったくできないのに、少しの憧れと受験から逃げたいがために。
えげつなかった。
課題が終わっても次の課題が出てくる。
先生によっては凄い早い英語を喋る。
授業内容が前回と違って全く話についていけない。
でも、入学自体は簡単。よほどの問題児じゃなければ多分、誰でも入れる。
しばらく経った時に、ふと思った。
これ、インターに入るのは凄くない。努力して、ようやくちゃんとインター生なんだって。


今まであんなだったやつが、初めてちゃんと努力し始めた。
予習なんてしてこなかったのに、今は内容によってはちゃんと予習するようになった。
先生に質問なんて絶対しなかった奴が、先生に拙い英語で質問し始めた。
今まで黒板に書いてあった文字だけを書いていた整ったノートは、先生の言ってるわからない単語を殴り書きして、聞き取れた数少ない単語の情報からの推測が汚い字で書いてある馬鹿みたいに情報量が多いきったないノートになった。

本当に小さな努力だけど、どうやら努力が報われるという言葉は多少は事実だったようで。
なんとかテストや課題はギリギリ合格ラインを超えていて、成績表には最低レベルの「要努力」が一つもなかった。
本当に些細な言葉だけど、英語のサポートクラスの先生から「あなた理解が早いから私好きよ」と言われたり。
友達に「私の英語のスキルは悪いからサポートクラスに入ってるんだ」なんて言ったら「何言ってるの、あなたこの二ヶ月でかなり成長したでしょ！」と言われたり。第二言語の時間に特別に英語の勉強している時には、「あなたは本当によくやってるよ」と言われたり。

こんな努力は当たり前だ。なんならやらなきゃいけないことだ。
だけど、それでもやっぱり嬉しかった。
努力できなかったやつが、ちゃんと努力してるんだって。

もちろんこんなの学校生活のほんの一部でしかなくて、辛いことしんどいことの方が多い。
役立たずすぎて申し訳なくなったり、何もわからなくて泣きそうになったり。
課題が終わらなさすぎて自分の無能さを思い知ったり。
こんなんのがずっと多い。多いんだけど、それでも努力しなきゃいけない。
だって、インターに行くって決めたのは自分だから。
馬鹿みたいに苦しい地獄を味わって、そんな状況に追い討ちをかけるように自ら苦行をして。
そんなんをずーっと、ずーっと続けて、ふとした時にそれはほんのちょっとの報われた何かになって返ってくるんだ。
本当にほんのちょっと。きっと、十分の一にも満たない。
それでも、それはとんでもなく嬉しいものなんだ。

最近は海外に引っ越してから一年くらいやってなかったピアノも再開した。
今まで弾きたいと思っても全く努力しなかったけれど、学校で努力し出した影響と、しんどい時に支えてくれた大事な曲
だったから、どうしても弾きたくて。
秋休み中の一週間、課題こなしつつほぼ毎日練習して、「夜明けと蛍」が弾けるようになった。
初級向けだからかなり簡単なものだけど、あの「夜明けと蛍」が自分の指で奏でられるんだと思うとやっぱり嬉しかった。

十五年生きたやつの初めての努力は、こんくらいじゃ足りない。
今まで努力しなかったのは今のため、なんて微塵も思わない。
あれは本当に馬鹿だった。だけど、今更嘆いたってどうにもならない。
だったら、今まで努力してこなかった分、ここで死ぬほど努力してみようと思うよ。
私にとっての十五歳は、生まれ直しの年みたいだ。