深夜、人の気配が消える。
瞼を貫く目障りな光もない。
不愉快な車の音も聞こえない。
空気は幾分か澄み、肺が軽くなる。
慌ただしさは消え失せ、
時間の拘束から解放される。
部屋の電気を消し、スマホの電源も落とす。
目を閉じて、深呼吸を一回。
人の存在を感じない。
代わりに自然の息遣いが聞こえるばかりだ。
風の抜ける音。
川の流れる音。
虫の音、蛙の鳴き声。
意識はどんどん溶け、自分が何者でもないただの空気になっていく。身体の輪郭が消えていく。自分という存在がなくなっていく。今この一時だけは、私は自然の一部なのだ。
ずっとこのままでいたい。少しでも動けば自分が人間であることを思い出してしまう。それは朝が来ても同じことだ。急激に意識が人間の形を作り出してしまう。
残念だけど、どう頑張っても私は人間なのだ。
仕方がないね。どうしようもない。
だからまた次の、人の気配が消えた夜に。