人事案件に数多くかかわってきた。
内資から外資に転職した社員さん。
こういうケースでは、「アレルギーを起こす」か「ウハウハ」か。
人によって反応が真っ二つに分かれるのが、見ていて毎度面白い。
今回はウハウハタイプだった。
「オリエンテーションの時に、上司にいきなり言われたんですよね。
『控えめで謙虚な人アピールに興味ないから、できることはできるってハッキリ言って』
『皆忙しいから、謙遜で他人の時間を無駄にしないで。やりたい仕事なら、私がやります!と秒で答えてくれた方がみんな助かるから』
いや~、前職では、取り立ててもらう、気づいてもらうのを待つのが暗黙のルールだったんです。
その前に名乗りを上げれば、出しゃばりと叩かれましたからね。
まさに真逆のカルチャーですね」
「そうかもね。で、あなたはどうやら、そのカルチャーの方が合っていたみたいね」
「そうなんです!」
この面談、紹介予定派遣という立場で入社してきた彼女の正社員登用確定を受けて実施されたもの。
紹介予定派遣の方は、2年間、パフォーマンスを観察した上で、その後の処遇を決める。
それが当時の人事規定。
ところが、初日の上司の一言でそれまでの芸風(…?)をかなぐり捨てた彼女は、ガツガツと仕事に邁進。
同じポジションの他のスタッフさんが不平不満を言って拒否した仕事も進んで引き受ける働きマンぶり。
そうして1年間で上げた成果があまりにも素晴らしかったので、2年の観察期間を1年繰り上げての正社員登用となった。
彼女のスピーディな正社員登用は、パフォーマンスだけによるものではない。
業務拒否したスタッフさんの穴埋めで、彼女が予習なしで飛び込んだプロジェクト。
そのプロジェクト・マネージャーが、社内のかなりの重鎮。
その重鎮さんが、彼女の上司を捕まえてプレッシャーをかけた。
「ああいう人は、すぐに他社に引き抜かれますよ。速やかに待遇を改善して、わが社にとどまってくれるよう手を打った方がいいと思いますよ」
やんわりと言ってはいるものの、これは事実上の業務指示。
その日のうちに、上司さんは上の方と人事部に相談。
私も含めて、繰り上げ登用の検討会議が行われた。
結果、全会一致でgoと決まった。
面談から数か月後。
ボーナス支給の時期が来た。
廊下でばったり彼女に会うと、半べそをかいている。
「ボーナスというものを、人生で初めてもらいました…。
長年心配させた親に、何かいいもの買って送ろうと思います~」
それから3年。
早期退職した上司のあとを引き継いで、今は彼女がその部門の管理者を務めている。
小さく縮こまっていた蕾が、植え替えた途端にどんどん膨らんで、綺麗な花を咲かせているのを見るのはいい気分だ。