この時期になると小学生の頃に通学路で金木犀の木の前を通りがかる度に幸せな気持ちになっていたことを思い出す。
私は、金木犀の香りが一番好きだ。
最近、どういった心境の変化なのか、今まで微塵も興味のなかった香水なんかの香りの類に気を遣い始めた。
オリジナルの香水を作ってみたり推し香水を手に入れてみたり。
それでも飽き足らず、今年はついに金木犀の香りの香水を買った。
私の手元にある香水達はどれもとても良い香りで、身に纏えばなんだかそれだけで自分のご機嫌が取れてしまいそうだ。
普段はその香水達を均等に使い分けているのだが、とある人に会う日は、どうしても毎回金木犀の香りを選んでしまう自分がいる。
あの人もこの香りを気に入ってくれている様だが、それが理由では無い。
どこかで聞いた話だが、花の香りを纏っている人は、その花の咲く季節に毎年思い出される存在になるらしい。
金木犀の香りを纏う人などこの世にごまんと居るだろうし、あの人の友達やこれまで知り合ってきた人の中にも居るだろう。そしてもちろん、これから出会う人にも。
それでも、この先あの人がこの季節が訪れる度にほんの少しでも私のことを思い出してくれたら、それはどんなに嬉しいかと思ってしまったのだ。
会えない距離では無いのに忙しくてなかなか会えない人だから、離れている間に一瞬でも私が過ぎれば良いなと思ってしまったのだ。
あの人の傍にこの先も居られたらそれは一番幸せだろうけど、未来には何があるか分からないし、どんなに強固な関係であれたとしてもそれがこれからも同じとは限らないから、それでもあの人の中に私の要素が少しでも深く、長く、残ってくれたらいいなと思ってしまったのだ。
あの人にこんな私の魂胆を気が付かれたりしませんように。
余談だが、私が初めてあの人に渡したプレゼントは金平糖だった。当時は名前を付けるような関係性じゃないから形が残るものは気が引けてしまったのだけれど、少しでも消費に時間が掛かるものにして私のことを長く考えて欲しかったから。
こんなに重たい私のことは、本当に一生知らないで生きて行ってください。