今日は大切な大切な小さな家族の初七日。
奇しくもクリスマスイブに重なった。
私の暮らす周囲はいつもとても静かだけれど、今日は何となく人の動きが多く、周囲を走る車や人の声が多い気がする。
クリスマスイブだからだね、きっと。
家族で買い物に出かけたり。
この時期だけに聴きたい曲もあるけれど、今はそんな気持ちになれなくて、
ただただ静寂に身を沈めたい。
お線香をあげ御経を唱えた。
今の私にできることはそれだけ。
少しでも考え始めると胸の奥が鋭く痛んで苦しいから、布団を干したり掃除をしたり、どうでもいいことで気持ちを散らす。
パートナーというより子供のような存在だった。
明るく無邪気で、そして優しい。
同じ犬にも他の動物にも。
争いを上手に避ける平和で穏やかな子だった。
よく晴れた日の草原が大好きだった。
走ったり転げ回ったり。
彼に関わったある人物に激しい憎しみを抱いていた頃、彼の優しい目を見れば
心の中の硬く冷たい塊が一瞬にして解け、「有難う。あんたのおかげよ。あんたがいてくれるから頑張れる。大丈夫よ」と、憎悪を涙で流すことができた。
彼がいつも変わらぬ優しい目で私を見つめてくれていたから。
だから頑張ってこられた。
なのに私はこの数年、体調が最悪。
毎日、必死に働き体中が痛くてしんどくて、最近はあまり近くの広い草原のある公園へ連れて行ってあげることができなかった。
おそらく家でひたすら眠りながら私の帰宅を待ちわびる毎日を強いられている彼に
「ごめんね、頑張るからね。絶対にこの時間は挽回する!挽回する!」と、激務の中、心の中で力を込めて話しかけていた。
どんどん過ぎていく時間に焦っていた。
私にとっての1年が、彼にとっては数倍の速さで過ぎていくことに。
「ごめん、もう少し待って。もう少し。もう少し」と心の中で焦っていた。
慌ただしすぎる毎日。
疲れすぎている毎日。
「頑張って働いてくるからね!いい子で待っていてね!必ず帰ってくるからね!行ってくるよ!ありがとね!」
今振り返ると、毎日そんな言葉をかけて家を飛び出していた。
疲れて帰宅すれば
「ただいま!いい子にしてた?ありがとね!すぐご飯の支度するからね!待っててね!」
そして春、体を壊して仕事を辞めた。
その後、一気に疲れが噴き出し、回復に思った以上に時間がかかり、やっと仕切り直し始めた矢先のこと。
挽回は叶わなかった。
思う以上に彼の中の時間が速く過ぎていたことを思い知らされた。
働いていた間、彼にかけた言葉は「ごめんね」がいつしか多くを占めるようになっていた。
やっと回復した最近では「いい子ね。ありがとね。大好きよ。ずっと一緒にいてね」が増えていた。
それだけが良かったと思えること。
挽回は叶わなかった。
囚われの環境にいた彼にとって外の世界は驚異の連続だったと思う。
道のど真ん中に座り込み、向こうからやってくる人を「どっから湧いた?!」と言わんばかりの驚きに満ちた目でジーーーっと見つめるものだから、通りすがる人をいつも笑顔にした。
そして「分かるのね。私ワンちゃん大好きなのよ。好きな人のことは分かるのね」と、その人の中の優しさや愛情深さを引き出していた。
彼にはそんなつもりはなかっただろうけど。
そういう子だった。
他の誰よりも幸せにしてやらなくてはならない子だった。
そして私は十分に挽回できなかった。
私の後悔は、今となっては彼には何の意味もない。
だからまた「ごめんね」を繰り返しそうになるのを無理に引っ込め
「ありがとうね」「愛してるよ」「大好きだよ」「今は自由に走り回れるね」「幸せでいて」「ありがとう」「いい子ね」と思いつく限りの言葉を写真に向けて声に出し、声に出すことすら辛いことのほうが多いけど、そういう時は心の中で。
私の心は止まったままで何も手につかない。
時間は止まってくれない。
やらなければならないこと、払わなければならないもの、買わなければならないもの、行かなくてはならない場所、応じなければならないLINEは常にあり、日常はお構い無しに続いていく。
彼の兄貴分も老いて不調の中にいる。
雑事の中で心が離れそうになると、
彼の写真に向かって「ありがとう(ごめんね)」「大好きだよ」を繰り返す。
でも胸の痛みが治まらない。
しばらくはひとりで耐えるしかない。
一日一日が実はものすごく大事だということ。
こんなふうにメソメソしている時間はない。
彼が100%の信頼とはどういうことかを教えてくれた。
100%受け入れるとはどういうことかを教えてくれた。
純粋な心とはどういうものかを。
人間の世界は複雑過ぎて、信頼や純粋さを保とうとしても難しい事のほうが多い。
相手の都合とこちらの都合、相手の思いとこちらの思いがうまく噛み合わなかったというだけで、簡単に関係が壊れてしまう世界。
みんながそれぞれの思惑の中で生きていて、内側と表の違うことのほうが多いから、相手の真意を巧みに汲み取ってご機嫌をとらなくてはうまく回らない、そんな世界。
今しばらくは、人間世界の煩わしさと離れていたい。
少しずつ前に進まなくてはならないけれど。
今はまだ胸が苦しくて。
ここにこうして吐き出すのが精一杯。