ベランダに出てタバコに火を付ける。立ち並ぶ家々の明かりは消えている。この寒空の下、どれだけの人が孤独を抱えているんだろう

ベランダに出てタバコに火を付ける。
立ち並ぶ家々の明かりは消えている。
この寒空の下、どれだけの人が孤独を抱えているんだろう。
帰る家もなく頼るつてもなく、凍えて思考を止めてひたすら耐えている人もいるだろう。
フラフラと過去の幻影に誘い出され徘徊しているお年寄りもいるかも知れない。
温かいおふとんの中であってさえ、寂しさを抱え悲しみを抱え孤独と不安に心臓を鷲掴みにされながら、眠れぬ夜を過ごしている人もいるかも知れない。

私は。

どうだろう。

孤独には違いない。
不安も常につきまとう。
明日も明後日も何の予定もない。
まだ働く気力体力が戻らない。
脳疲労と鬱で思考がまともに働かないから、新しい仕事もきっと覚えられない。ミスばかりしてあきれられてストレス抱えて苦しむことになるのはもうゴメン。
もう、他者を傷つけてでも自己保存に必死な人間の世界でストレスまみれになるのはごめんだ。

一方では確実に消えていくお金。
幸いというべきか、あまりお腹が減らないので買い物を控えるのも節約するのも苦にならない。それでも何やかやとお金は出ていく。
何のために働き何のために生き続けなきゃならないんだろう。
どこまで行っても孤独は私から切り離せない影のようにつきまとう。
誰もが孤独。不安。
それでも生きている。生きていく。
死なない限りは生きなくてはならないから。ただそれだけ。

幼い頃から虚無に取り憑かれていた。
父や母から私がいかに両親の期待に外れているかをしつこくなじられ続け、自分の感情や考えを口にすれば生意気だ！へそ曲がりだ！ひねくれている！可愛げがない！子供らしくない！としまいには、あんたなんか！と人格も否定され、叩かれつねられ物を投げつけられ、コレでもかと痛めつけられ何を言っても私の気持ちなど顧みられることもなく、ひどい言葉を一方的に叩きつけられ情けなく恥ずかしく涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながらも、目前で感情的にわめき続ける母の声を聞いてるふりしながら、鼓膜にギュッと力を入れて母のキンキン声を締め出す虚しい努力をしながら、こっそりと意識から母を締め出し現実から心を切り離しながら、「どうせ死んじゃえばこんな恥ずかしい思いも情けない思いも全て消えて無くなる」と思った途端、スッと冷静になり涙も止まり、それがまた、なんだその目つきは！と母親の怒りを買うという、そんな経験を子供の頃に重ねてきたから、私の中にはずっと「どうせ死ねば今生の苦痛も孤独も悲しみもみんな意味をなさなくなる」という思いが居座っていて、何をするのも無意味に思えて心から楽しい、幸せなどと感じたことは殆どない。
幸せを求めたくても、気がついたら何が幸せと言えるのか、わからなくなってきたので、無理にでも幸せ探しをしている。温かいお布団で眠れて幸せ、あ、それ以前に屋根があるところで眠れて幸せ、冷蔵庫があって幸せ、蛇口から水が出て幸せ、と“。

こんな生き方しかできない私でも周りに助けられ生きてきてしまった。

この先も生きなくてはならないと思うと、うんざりする。
もうこのままずっと家の中に閉じこもり着替えもせずベッドの上で呼吸が止まる、心臓が止まるその日までグダグダと過ごそうか、何もかも締め出し、人間関係もすべて無視して私の存在をみんなの記憶から消したいなどと本気で考え始めてしまう。

どう生きたって、市井の大衆のひとりに過ぎない私を知る人なんてほんの僅か。そんな私が消えたって誰も何も困らない。
一生かかって生きても、必ず死ぬ。死ぬ時にはひとり。死んで十年も経てば私が存在したことなど簡単に忘れられていく。
それが嫌なのではなくて、そんな程度の人生。なのに結末がいつ来るかも分からないまま、最後の日が来るまで生き続けなくてはならないこと、体が飢えないよう物を食べざるを得ないこと、もう絶望。

友人知人という区分の人たちだっていずれはバラバラになり、みんな自分のことで精一杯で互いのことなんか気にかけてる場合じゃなくなるのだし。
そしてその人たちもまたいずれは消えていく。
その程度の人間関係に煩わされるのもバカバカしい。
空気のように水泡のようにスッと静かに今ここで消えてしまいたい。
子供の頃からの願望が未だに希望溢れるものへと転換できずにいる。
たぶん無理、もう。
私にその意欲がないから。
無欲。
でも、生きるためのモチベーションが欲しいというのは最も贅沢なことなのかもしれない。
人間は生き続けられるようにできている。とことんまで体は人を生かす方向で働き続ける。
簡単には消えられない。
自分の体であっても思い通りにはならない。
死にたいというより生きていたくないだけ。
子供の頃からずっとそう。
私をこんなふうにしてしまった母はなんだかんだで自分だけは孤独から自由になれるとでも思ってるらしい。
孤独は逃げようとすればするほど追ってくる。そんなことも分からず生にしがみつき、自分を中心に構ってもらいたがる母は娘の私を孤独に陥れた。
恨みつらみはないよ、今更。
ただ、もう勝手にやって。という感じ。
私をもう巻き込まないでね。
私はとりあえず生き続け無くてはならなくて、それもひとりで頑張らなくてはならないから、あなたの孤独の面倒まで見てやる余裕なんてない。
自分の孤独は自分のもの。
人を犠牲にしてまで自分だけは孤独から逃れようだなんて、しかも自分が痛めつけた娘に、優しくしてもらうのがあたりまえ、優しくしてくれない娘なんて産まなければ良かったと、そんなことを言えば私が恐れ入ってあなたの前に土下座するとでも思ったの?
どうぞひとりで孤独と不安に飲み込まれていればいい。それすらも私のせいにすればいい。
自分のヒステリーまで子供に過ぎなかった私のせいにしてきたように。
それであなたが幸せと思えるなら勝手にすればいい。
私はひとりで孤独に耐える。
そのほうがずっと居心地良くいられる。
私はあなたみたいに感情的な依存など誰にもしたくない。