組織人として長年過ごしたことの大きな恩恵の一つは、人間関係の力学について、膨大かつ広範囲の実例をつぶさに観察出来たことだと思う。
その観察のお陰で、長年の謎に一つ、解答らしきものが得られたことが地味に嬉しい。
知的なアプローチが必要な人に対して、どこまでも情緒アプローチしかしない人。
こういう構図を幾度となく目にした。
目撃した当初は、私はこれが不思議で仕方がなかった。
情緒アプローチの人は、ふざけているのか、何かの目的で敢えて挑発しているのか?
そのアプローチでは、相手に何も届かないよ?
…と大いに困惑しながら様子を見ていたものだ。
この不思議な現象について、あるとき、ああ、と納得できた。
これは、所謂、「無い袖は振れない」現象なのだな、と。
つまり、情緒アプローチの人は、知的アプローチという袖を持っていないから、その袖を振ることができない。
これは、考えてみたら無理もない話だ。
知的アプローチには、仕込み、内省、表現力のブラッシュアップが必要だから。
それも、継続的に。
それを一切せずに、自分個人の経験、感情、周りの雰囲気、世間一般で常識とされているもの。
こういったものを無批判に、その場の気分で、ろくに言葉も選ばずに、漫然と相手にぶつける。
こういったやり方が唯一のコミュニケーション手段で、他のやり方があるなどとは知らず、学ぶ機会さえなかったような人。
そういう人が案外多いんだなと。
昔の上司のY氏。この人は、知的アプローチメインの人。
私の隣の席のAちゃん。この子は情緒アプローチ派。
Y氏とAちゃんの面談は、面談として成立しない。
知的アプローチ一本やりでAちゃんのパフォーマンスを評価するY氏は、Aちゃんから見るとただの怖くて冷たい人だ。
一方、Y氏は、Aちゃんの自分のパフォーマンスに関する弁明が、終始情緒アプローチなので、パフォーマンスレビューの落としどころを決められず、途方に暮れる。
このままだと、期限までに面談の結論が出せないので、助けてくれとY氏に泣きつかれたのが私だ。
「いや、面談に第三者が立ち会うって、あり得ないと思いますけど」
「大丈夫!僕が泣きながら人事と部長に相談したら、特別にってことで許可出たから!ほら、これがそのメール!」
(また泣いたの…?((((;゚Д゚)))))
と呆れる私。
実際、このY氏ほど、会社で泣ける人を見たことがない。
この人の泣き癖に関しては、また別の機会に書きたいところだが、ともあれ、うんざりしながら、この厄介な二人の面談に立ち会うことになった。
Y氏の知的アプローチに、情緒アプローチを大さじ1杯ほど加えてAちゃんに伝える。
Aちゃんのコテコテの高湿度のめんどくさい情緒アプローチをかわしつつ、必要な情報を辛抱強く探り出して、Y氏に伝える。
それでようやくパフォーマンスレビューが成立し、期限までにレビュー用紙をまとめて人事部に提出出来た。
Y氏が私にきいた。
「なんでそんなことできるの?」
「私は両刀使いなので。6歳の時から両親の諍いの仲裁をしていますからね。母親がYさん、父親がAちゃんにそっくりなんですよ」
「そうなんだ?いや~助かったわ。ただ働きじゃ悪いから、お礼に何かあげるよ!」
「臨時ボーナス。3か月分。キャッシュで」
「無理。それに金はまずい。いろいろと」
「じゃ、コーヒーメーカー。ちょうど前のが壊れたんで」
「OK!( ´∀`)b」
という流れで、翌週にはデロンギのエスプレッソマシンをゲットした。
そのマシンでカプチーノを淹れつつ、つらつら考えた。
「美貌、知性、誠実さ。
この3つは、非常にまれな生得のものであり、生まれつき備わっていない人があとから身に着けることは出来ない」
ロマン・ロランがこういった主旨のことを書いているが、美貌はともかく、なぜ「知性と誠実さ」なのか。
これが、私にはずっと謎だった。
そして、この2つは相関しているのか、それとも単に並列の関係?
これも謎だった。
しかし、職場でこの知的アプローチと情緒アプローチをめぐる様々な事象を観察して、一つの答えが出たように思った。
知的アプローチが出来ない人に、誠実な言動は不可能だということ。
従って、やはり知性の欠如=誠実さの欠如で、この両者は相関しているということ。
例えば、何かで病んでて、病んでいる本人が:
・病んでいる原因
・解決策の有無
・解決策があるなら、その具体的な内容
・その解決策を採用した場合、どの程度の時間でどこまで回復できるのか
・その見通しの根拠は何か
を事実ベースの知的アプローチで正確に説明して欲しいと望んでいるのに、
・あなたは頑張っている
・きっといつか元気になれる
・私は心から応援している
・困ったときは何でも相談して
という空回りそのものの情緒アプローチで応じる人が、誠実とは到底言えまいよ。
しかもなぜか、情緒アプローチオンリーの人は、謎の指導者目線を伴うことが多い。
この結論に達してからというもの、情緒アプローチしか使えない人については、生暖かい目で遠くから眺め、適当にやり過ごすことにしている。
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