「その人の何処が好きなの?」
『聞くはやすし、答えるは難し』という諺があれば、きっと見事な例文になるはずの質問だ。
少しだけ戸惑い、視線をそらして私は考えた。
何処、とは。
笑顔、優しいところ、
話があうところ‥‥
「その人」の素敵なところを幾つも挙げ、左手で数える。
しかし、その思いついた言葉を
「その人」に当てはめると、
なんだか少し違和感をおぼえた。
笑顔が素敵だから、「その人」が好き
優しいから、「その人」が好き
話があうから、「その人」が好き、?
それは違う。
その特徴があるから、「その人」を好きなわけではない。
「その人」を構成する素敵な特徴を全て持った人が、目の前に現れたとしても
きっとわたしは「その人」しか愛することが出来ないのだろう。
それはきっと、
脳がゆらぐようなもの
言葉では表すことの出来ない、
こころのこころの奥底が
「その人」の存在を必要とする
そこまでかんがえて、数え途中のままであった左手をおろす。
「その人」が「その人」である限り、
私は「その人」を愛している。
ならば答えは‥‥
「すべてだ」
そうしたら質問者はふふ、と笑って
「私も」
と答えた。