2つ下の妹が中学を卒業した。
卒業式に出席した母が、夕食の席で言った。
「今年の答辞より、2年前のあなたの答辞のほうがよかった」
毎年、生徒会長が任される答辞。
母曰く、今年の答辞は言葉が堅く、読み方も平坦で心に響かなかったが、私の答辞は良い意味で中学生らしくて、啜り泣く保護者の方もいたのだとか。
何話してたかはよく覚えていないけれど、感動したのは覚えているんだよね、と誇らしそうに言っていた。
たしかに、背伸びした言葉は届かないのを知っていたから、当時から配布物の原稿も人前で話す言葉もわざと等身大の自分の言葉で書くようにしていた。
小学校の頃から人前で話す機会がたくさんあったから、抑揚をつけて、人の心に訴えかける話し方も知っていた。
褒められるのは嬉しい。
けれど、悲しかった。
あの答辞は、私の中学校生活の大きな嘘の一つだから。
中1の終わりに体調を崩したのがきっかけだと思う。まるでモノクロの世界にいるような感覚が3年以上続いた。
辛かったり苦しかったり怖かったりした以外の記憶が、ほとんどない。
当然、答辞に書けるような楽しい思い出が、私には何一つなかった。
放課後たったひとりきりの教室。
何も書くことがないのに愕然として。
私の中学校生活は空っぽだったのだと知って。
答辞を書くのが苦痛で苦痛で。
ボロボロと泣いた。
いい天気の日だったのに、私の心は真っ黒だった。
結局答辞は、先輩方の書いたものを参考に、言葉を少し変えて書いた。
私は先生の贔屓によって生徒会役員になった。
中1で担任に立候補を勧められたとき、こう言われた。
「大丈夫、お前は絶対受かるから。」
担任は学校内でそこそこ力のある先生だった。
選挙が終わって、当選が決まってから、噂が流れた。
「あいつは当選に必要な過半数が獲得できていないらしい」
「過半数どころか3分の1も票が入っていないらしい」
強い動機があったわけではなかった。
取り繕うように言葉を並べていたけれど、そこまで熱意があったわけでもなかった。
おまけに1年生で立候補。
きっと私は生意気にうつっただろう。
集団で意図的に票を入れないいたずらがあったのかもしれない。
そうでなくても、私がなんとなくで立候補したのを見破って、票を入れない人なんてたくさんいただろう。
信任投票とはいえ、私は落選していたはずだった。
しかし当選してしまった。
噂を聞いて、初めて担任の言葉の意味がわかった。
あれは投票数が足りなくても、自分が当選させるから大丈夫なのだという意味だったのだと。
担任が私を当選させたのだと思った。
そうでなくても、信任投票で落選者が出た場合、再選挙になる。学校側はそれを実施するのはきっと面倒だっただろう。
何故担任は私を当選させたのか。
自分のクラスから生徒会役員を出したかったから。
自分が評価されるためだ。
私は、利用されたんだ。
あくまで噂は噂だし、私が当選「させられた」のかどうかはわからない。
しかし、私が担任の評価のために利用されあのは、2年生になって明らかになった。
クラス替え。担任は前年と同じだった。
クラスのメンバーは担任のお気に入りの寄せ集め。
定期テストのクラス平均は学年トップ。
体育祭で確実に優勝できるメンバー。
前年で担任が受け持っていたクラスのメンバーが圧倒的に多かった。
部活でよい成績を残している人も何人かいた。
担任が顧問を務めるサッカー部の部員もたくさんいた。
そのクラスは評判の良いクラスだった。
他クラスからはこっそり「贔屓クラス」と呼ばれた。
そして、その中に私がいた。
生徒会役員の、私が。
2年生の秋。
私は生徒会長になった。
汚い方法で生徒会役員にのし上がった私は、まるで正当に選ばれたかのような顔をして人前に立ち続けた。
嘘をついた。学校に。1000人以上に。
そんな人間が、学年の代表として澄ました顔で答辞を読んだ。
まったく無い思い出を薄っぺらな言葉で書いて。
中学校生活が充実していてとても楽しかったと心の底から思っているかのように。
ペラペラの内容のくせに、わざと背伸びをしないで書いた文章と、芝居がかった読み方のせいで、立派な答辞に見えてしまった。
ぜんぶぜんぶ、嘘なのに。
そんな嘘が受け入れられ、誰かの心を揺さぶって。
いろんな人が凄かったと言ってくれたけれど、ちっとも嬉しくなかった。
苦しかった。
辛かった。
いっそ綺麗事だと、
嘘八百だと、
言ってくれたら楽だったのに。
思い出す度に罪悪感に囚われて、
うまく息が吸えなくなる。
ごめんなさいと、何度呟いただろう。
卒業して2年経って、私の時間はようやく動き出したのに、
まだ受け入れられない過去の一部だ。
時間が巻き戻って動けなくなってしまう。
何が言いたいのだろう、私は。
いまさらこんなことを引っ張り出して。
ずっと、吐き出したかった。
そんなの妄想に決まってる、気にするなと言ってもらいたかった。
嘘。
たくさんの人を騙した私を、罵倒してほしかった。
下手に私を肯定されるよりもそのほうが、きっと幾分か楽だ。
過去の気持ちを打ち消してしまうほどの辛いことが欲しい。
もしくは、思い出せない違和感も込みで、忘れてしまいたい。
数ヶ月前の携帯のメモにそう書いてあった。
平時に読んだら、きっと大袈裟だと笑い飛ばしてけしてしまったのかもしれないけれど、
思い出してしまった今はそれが欲しい。
文章が迷子になってきた。
過去のことなんか気にせずいられるようになりたい。
楽になりたい。
長文&乱文を読んでいただき、ありがとうございました。
(これで締めるのは久々だけれど、今回は本当に長文で乱文の自覚があるので。)
48787通目の宛名のないメール
お返事が届いています
ななしさん
散々考えて...
お返事することは、私にはできないと思いましたが、それでもあえて返信させていただきます。
(お辛い気持ちは、私なりに重々分かっているつもりですが、似たような過去を持つ私からあなたへ)
答えのない答えを探しても、りぃふさんの求める答えは得られませんよ?
(私はそう思います)
りぃふさんの答辞に...
曰く、たとえ薄っぺらだったとしても、その内容を求めてその場で感動した人もいる。
また、担任の評価の為に利用されたって、その後りぃふさんが生徒会役員を行う上では、そのことは何ら関係はありません。
すべてはりぃふさんの行動であり、その後の努力の積み重ねです!
その結果、3年の時に会長になれたのでは?
...それが答えだと思います!
一つ一つに理由や答えを求めないと、すっきりしないのかも知れませんが...
そろそろ手放しても良いのかと存じます。
ちょっとキツイ言い方になってしまいました。
もし傷ついてしまったら、私を悪者にして憂さ晴らしを沢山して下さい。
by 京
ベル
りぃふさんの小瓶、最後まで読んでいろいろな思いが絡み合っているのを感じました。
卒業式の答辞、ここでもう一度やり直してみませんか?
今度はりぃふさんの言葉で、あの時に言いたくても言えなかった思い、伝えてみませんか?
辛さや苦しさ、怖さを経験したりぃふさん。
そのりぃふさんだから伝えられた言葉があるんじゃないかと思いました。
ここで答辞をやり直すことで何が変わるのかはわかりません。
でも、僕はりぃふさんの本当の答辞、聞いてみたいです。
以下はまだお返事がない小瓶です。
お返事をしていただけると小瓶主さんはとてもうれしいと思います。