寄り添うこと、それは同じにはなれないということ。
小さい時の夢は仮面ライダーになることだった
悪を倒して人々を守る姿はかっこよかった
きっとぼくは今でも仮面ライダーになりたいのだろう
現実はいつだって大股歩きで思い出を抜き去っていく
誰かをかばおうとして裏切られたことを
誰かの心に棘を刺してしまったことを
気持ちの一欠片も伝えられなかったことを
一滴もこぼしたくなかったものの全てが
一滴も残さずにぼくの手からこぼれてしまったことを
忘れて飲み込んでしまうには
あと何回ぐらい地球を回せばいいのだろう?
母親がよく言っていた
相手の気持ちを考えなさいって
先生がよく言っていた
もっと心を開きなさいって
大きくなった今だって分からない言葉たち
エスパーになってみたい
心の中身を読んでみたい
リンゴが欲しいのなら直ぐにスーパーに
友達に怒っているのなら直ぐに電話を
宿題が終わらなかったのなら直ぐにきみの家へ
そういう風に何も傷つけることは無くて
年老いた猫のように
要らなくなったのなら音も無く消えていく
誰か一人にとっての完璧な回答になってみたかった
ぼくが初めて好きになった人は
あなたとわたしは違うのだと
わたしの過去には何もなかったら
幸せの絶対量が違うのだと
ここまでの歩き方が違うのだと
きっとあなたには理解できないと
そう言って去っていった
ぼくは泣くことだってできなかった
誰かの心に寄り添うことを
ぼくはいつから止めていたのだろう
ヒントのないクロスワードパズル心を
解けるはずもないって諦めて
街頭のティッシュ配りのような優しさをばらまいて
返ってくるはずもない微笑みを
ずっとずっと待ち続けている
同じ雲を見てきっと同じ羊を見つけられないと思いながら
口角を上げて声を出してやり過ごすことを
ぼくはいつから続けていたのだろう
どうして理解できなかったのかと
あとどれぐらい辛い目に合えば理解できるのだろうと
何回も雨が降って雪が降った
分かりたかった
理解できるはずもない痛みを分かりたかった
そしてそれから
ぼく自身の痛みを分かってほしかった
小さい時の夢は仮面ライダーになることだった
それはヒーローが必ず勝つからってことじゃない
正しさが本当に正しいからってことじゃない
悩みながらつまづきながらでも
誰かの夢を応援して支えること
そういう姿に憧れたのではなかったのか
どうか許してほしい
同じではない
同じではないから全てを理解することなんてできないよ
ぼくはぼくの知っていることしか知ることはできないよ
ぼくはぼくの過去を変えることはできないよ
ぼくにできるのは一緒に考えることだけ
きみのこれからを変える手伝いをすることだけ
簡単に解決することは出来ないだろうけど
悩みをほんの少しだけ持ってあげることだけ
そんなものは自己満足だと言われるのだとしても
優しいことをやめないでいたいんだ
ひとりで生きていくことはあまりに難しいことだから
ぼくはひとりで生きていけそうにないから
ひとりで居ることが辛くて泣きそうな事は
ぼくにもようやく理解できるから
お互いの荷物を分け合うことは
きっと出来ると思うから
もう出会うことのない出会いは
無意味じゃなかったと思いたい
もう変えることのできないものは
足を引っ張る鎖じゃなくて
壊れることのないレガシーなんだろう
解けないパズルを解く鍵はいつか見つかるかも知れないし
流れ行く雲の中に同じ飛行船を見つける事もあるかもしれない
雨が降れば虹がかかるし
雪が降れば白銀で全てが眩しい
太陽はもっと眩しい
ぼくはきっと、そういう風に生きていくんだ。