二度と逢えない人に恋をした。文章長いけれど、どうかお付き合い願いたい。
ホテルウェイトレスのバイトを初めて3日目。まだ慣れぬ全てに目を白黒させていた華の大学一年生の私は、会場設営の際、背筋をぴんと伸ばして椅子を運ぶ、一人の男性とすれ違う。目が合った瞬間、心臓が、なんて言うか、生まれ変わった感じがして、ああこれが一目惚れってやつなのだろうなぁ、と悟った。雰囲気、体型、顔、別に好きなタイプでも無し、俗に言うイケメン!でもなし、でも何故か「この人!」というサインが鳴り止まなかったのだ。しかし皆黙々と準備をしている中、加えて新人という立場もあり、彼に話しかけることは難しかった。
設営が終了すると、本格的にパーティが始まる。その日はコースディナー、3人でペアになって配膳を担当するという、中々に大変な仕事内容であった。それで、それで、私のペアは、そう、運命のいたずら、彼だったのである。ペア欄に書いてある珍しい苗字、戸惑っていたところに「それ俺だよ」と声をかけられた時、安直にも死にそうになった。
そこから、待ち時間、色々な話をした。有名な大学の院生だということ、派遣だが、普段は他のホテルで働いていてほとんどここには来ないということ、野生的な水族館が好きだということ、これが私の知り得る彼の情報である。聞かれっぱなしで、自分から質問できなかったことが、今でも後悔の一部だ。
彼は、聡明で落ち着いた話し方なのに、笑いのツボも感性も若干変わっていて、仕事中も聞こえないくらいのボリュームで鼻歌を歌っていたり、すれ違う時に変顔をしたりと、非常に面白い方だった。一緒にいると自然と笑顔が溢れる。私、男性経験は豊富な方なのだが、ここまで飽きない男性は初めてだった。
上記も全て魅力的なのだが、「成長させてくれる厳しさ」を向けてくれた事、これが私を虜にする決定打となった。
最初に綴った通り、私はバイトそのものが初めての、使えない新人であった。しかし職場の方達は優しく、やっておくからいいよ〜と、全てを片付けてくれてしまうのだ。これでは成長出来るわけがない。この日もチーフからは「君はサポートね、卓には危ないから運ばないで」とお達しが来ていた。
その旨をペアである彼に伝える。少し考えた末に、彼が言葉にしたのは「やってみよう」という一言だった。
見てるだけじゃ出来るようにはならない、時間かかっても失敗しても良いから、俺がサポートするから、やってみよう。
落ちない訳が無い。素敵すぎる。面倒だからと自分で片付けはせずに、私を成長させてくれようとしている(ただ自分の仕事を増やしたくなかっただけかもしれないが)、その事実に、涙が出そうになった。そして彼は、派遣であるにも関わらず、逐一私に教えを施してくれた。間違っている所は知らせてくれて、自分で直させてくれるし、マナーだったり、「やりやすい」方法だったり、わからないこと全てを丁寧に説明してくれた。トレイの持ち方の練習中に叩き落とされたり、時々イタズラもされたけれど。その度にきゅん、と喉が詰まるような感覚に飲まれた。
嗚呼、私は馬鹿だ。どうでもいい男になら臆もなく誘いをかけられるのに、彼には連絡先を聞く事すらままならなかったのだから!今日は本当にご鞭撻ありがとうございました、とお辞儀した後、その後の一言が言えない。彼は「またね、頑張ってね」と笑って姿を消した。その日から、彼のこと以外を考えられなくなってしまった。はべらせていた男も全員追放して、告白してくる奴は払いのけて、今は灰色の世界で暮らしている。見せかけの可愛さで寄ってくる男なんて興味が湧かない。その点彼の凛々しさと美しさ、はぁ、また会いたい。
彼の普段働いているであろうホテルの求人が出ていた、これってやるべき?(本題)でも行ったら気持ち悪いって思われないかな、偶然だとしてもって。連絡先聞きたいけど、無理って言われたら自殺する自信がある。どうしよう、どうしようかな???