ふとした時、車を運転したり、お風呂に入る時、一瞬、自分が誰だかわからなくなる。
今まで生きてきて経験したことも全て夢の中のことだったような感覚に陥る。
自分は誰だ?
身体から、魂が離れてしまうような、例えるなら、人の形をした入れ物に、居心地が悪そうに、魂が入っているような、そんな感覚。
自分が所属する場所、関わる人たち、過ごしてきた時間、全てが嘘のように感じる。
現実に、1人だけ取り残されている。自分が、何にも所属していないことを、改めて知った気がする。
私が、私ではないかもしれないことを、私しか気がついていない。私だけが、気づいてしまった。
私には、呼ばれていた名前があるけれど、本当は、名前はない。身体はあるんだけれど、それは私ではない。
そう考えていると、記憶が飛びそうになる。記憶が飛びそうになるのを、必死でとめる。
私の家族は誰で、友達は誰で、会社はどこで、そういったことを必死に思い出し、記憶がなくなるのを、防ごうとしている。
例えるならば、本当の自分が、死んでしまいそうな、そんな感覚。
発作的に起こったそれは、数分経てばおさまる。おさめている、と言った方が正しいかもしれない。自分の中の、自分を殺してはいけないと思う感覚が、辛うじてあって、それが、私のこれまでの記憶がなくなるのを、止めている。
もし、私を制御するその心が、何かの拍子になくなってしまったら、と考えると、とても怖い。発作的に起こったそれが、私を支配して、もう戻ってこられなくなる時が来るのではないかと思うと、とても怖い。
もう戻ってこられなくなったとき、私のこれまでの記憶は、全て消去されて、からっぽになると思う。それでも身体はある。じゃあ、その身体は誰が動かすのか。私ではなくなったそれは、さも私であるかのように振舞って、また新しい日を生きていくのか、身体さえ殺してしまうのかな。