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「僕はおでこに傷がある。」(第一話)実話です。もしかしたら第二話があるかもだけど、わかんない・・・

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僕はおでこに傷がある。

僕は小学3年生だった。
放課後、友達数人と一緒に校門を出た。
前を歩いていた友達T君がおもむろに野球のバットを振った。
今でもあの一瞬を鮮明に思い出す。

刹那、僕はとっさに腰をかがめた。
スローモーションのように覚えているけど、間に合わなかった。
おでこを両手でおさえてしゃがんだ。
大きなコブが出来たと思った。
直後、アスファルトの路上に血がボタボタと流れ落ちるのが見えて、あれ?って思った。手のひらが流れる血で暖かかった。
アスファルトが真っ赤になって、流れた。

曇りガラス越しのような記憶。
保健室のベッド。
至急、姉を呼ぶようにと叫ぶ先生の声が聞こえていた。
2歳年上の姉が同じ小学校に通っていた。
今思えば先生は僕が死ぬかもと思ったのかもしれない。

ここから記憶が曖昧になる。
病院で治療を受けた記憶はほぼない。
自宅の布団で寝ていて母親がすぐそばに座っていた。
T君の母親が来ていて、ひたすら僕の母親に謝っていた。

おでこのど真ん中、手塚治虫の「三つ目がとおる」のような大きな絆創膏。
幸い、骨にも脳にも異常はなかった。
額が割れて血が出たのがかえって良かったらしい。
しばらく学校を休んだのかは覚えていない。

おでこに大きな絆創膏のまま学校に行った。T君とは何もなかったみたいに、何も変わることなく仲良く遊んだ。いつも通りの笑顔のT君。いつも通りの僕。それがとても自然だった。T君とはもともと仲が良かったし、いつも通りだった。
おでこに傷は残ったけれど、それ以外は何も変わることなく、T君も含めてクラスのみんなは仲良しだった。

そもそも僕は怒る気持ちも恨む気持ちも、これっぽっちも持っていなかった。
T君に悪気はこれっぽちもなかったし、僕も謝って欲しいとも思わなかった。
そんな概念自体なかった。
僕に怒ってないのか聞いてくる他のクラスの子がいたけれど、その質問を不思議に感じていた。
この事件の後もいつも通り一緒に遊んだし楽しかった。

体の大きなT君。背が低くてやせてる僕。よく一緒に将棋をして遊んだ。いつも僕が勝ったけれど、負けず嫌いなT君は、何度も挑戦してきた。将棋以外にも、校庭で走り回ったり、みんなでT君の家でトランプや人生ゲームをしたり、すべてがいつも通りだった。

先生は僕のおでこの傷を気にしてか、男の傷は勲章なんだ、みたいな話をしてくれたりした。

けれど、僕はなんとも思ってなかった。
大人になった今でも傷は消えずに残っている。もし僕が女の子だったら違うのかもしれないけれど、今でもなんとも思っていない。

おでこに傷はあるけれど、心の傷にはなっていない。強いて言えば、僕は野球のキャッチャーができない。目の前でバットを振られるのが怖いから。でも、野球選手ではないし、困ることは何もない。

傷はあるけど、傷はない。
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