4年前の私へ
4年前のちょうど今頃のあなたは目の前がほぼほぼ真っ暗だと思います。
文化祭を目の前にバザーの準備もしながら、次の試験のとある教科で留年の危機に陥っているからです。
留年すればそのまま退学にさせると母と約束した上での受験・入学だったので余計に切羽詰まっているでしょう。
あなたの中の今のあなたはもう、頭をかきむしりながら机に突っ伏して、広げたままのノートと教科書を壁に向かって投げて、母の部屋から拝借した剃刀の刃で手首を切っている頃でしょうか。
退学した先の未来がわからなくて、その問題の教科も何度やっても意味が分からず、
自分がこんなに愚図で馬鹿だったのかと思い知らされたような気持ちになっていると思います。
自分を嫌う感情だけを頼りに力を込めて手首を切って、痛さに震えて流れる血に怯えて、
ネットのとあるサイトに書いてあった「本当に追いつめられている人は自傷しても痛みを感じなくてむしろ血
見て安心する」という言葉に
「自分は追いつめられてもいないのにこんなに逃げたがるようなクズなのか、こんなクズは早く死なないと」と余計に自分を嫌いになって。
本当に馬鹿ですね。
デッドオアアライブの二択しか見えない馬鹿。
長くなりますが未来の話をします。
あなたはあなたなりに必死に勉強をし、そのテストで微妙に進級に届かない点数をとります。
しかしそのテストのクラス全体の平均点がそもそも恐ろしく低かったこともあり、奇跡的に再試を受けることができます。
その再試の数日前、夜になっても教室で勉強しているところへある人がやってきます。
学年で成績トップ10に入っている男の子です。
あなたが仲良くしている子と同じ出身というだけでろくに話したこともない彼ですが、彼に助けを求めてください。
彼は快く教えてくれます。
今までしたことのないやり方で勉強をすることになり、あなたはその数日で、再試で進級を確定できる点数をとれるだけの実力を身につけます。
それからはこれまでの少ない友達に加えて、彼や彼の友人を含む多くの人と話をよくするようになります。
それからあなたは気づくのですが、あなたを助けてくれた彼はとても要領がよく、気の回る人です。
クラスの誰からも気軽に声をかけられ、研究も余裕を持って予定を組み実行することができ、特にがり勉になることもなく平均点を大きく上回る点数をとり、短時間の説明で私を平均点くらいにまで押し上げるほど教え方が上手です。
簡単に成績が好調になったことで調子に乗ったあなたは、それから程なくして彼にただただ甘えることになるでしょう。
彼はそれを怒ります。あなたもムキになってしまいます。
彼が私に怒るのは、全部で2度。
その1度目であるこの日、あなたはすぐに自分の非に気づいて、しかし素直に謝れずに終わります。
次の日は苦手教科の試験ですが、試験が始まる前に謝りましょう。謝らなければ彼もあなたも試験に身が入らないでしょうから。
そして彼が2度目に怒ったときの話ですが、あなたは15年来の幼なじみに酷い裏切られ方をします。
その頃のあなたはただでさえ折り合いの悪い母と更に険悪なムードになっていて、会社を辞めてきたばかりの荒れた兄に毎日毎日殴られ性的暴力も受け、
毎日少しずつ、少しずつ心の何かがはがれ落ちるような感覚にいるところで、その幼なじみに裏切られたことですべてが崩壊します。
死にたいと喚く心の中の自分をなんとか食い止める学校の友人たちや彼といった存在がかえってつらくて、あなたはほとんどの人が見ていないネットの片隅に、鍵をかけて呟きます。
「もうみんな自分を嫌いになってくれればいい」
「はっきりと「おまえはいらない」とみんなに言ってほしい」
「もういなくなりたい。不幸せが中途半端だから死ねないんだ」
「こうやってみんなのせいにしてる自分の傲慢さが嫌い、みんなが私を嫌いになればいいのに」
つぶやいて数時間後の夜中、あなたが好きなBUMP OF CHICKENの曲を携帯から流しながら、手首を切って血まみれになったティッシュの処理に悩んでいるとき、曲が止まってメールが来ます。
「嫌いになってほしいとか勝手なこと願ってんじゃねえよ」
どうやって鍵の番号がわかったか今でも知りませんが(とある日付だったから片っ端からためしたのかも)、
普段そこそこに顔文字や絵文字を使うはずの彼からそんなメールが来て、あなたは固まります。
あなたは少し自虐めいたことを言いながらも謝るでしょう。
彼は「家のことはわからないが、少なくとも学校にはお前のことを気に入ってるやつはたくさんいる。もちろん俺もその中にいる」と言ってくれます。
弱っているところに優しくされるというベタなことでですが、あなたは彼を好きになります。
その後進級したあなたは担任の先生に恵まれ、クラス替えもない学校でしたから少なくとも学校にいる間は楽しい時間を過ごしました。
そして誰にも言わずに隠してきた私の気持ちに気づいた彼の友達が、私の背中を押します。
そのこともあってあなたはとあるお祭りの日、彼を呼び出し、「好き」の二文字が上手く言えずに30分にわたる告白をします。
そしてあなたは人生で初めて人とお付き合いすることになります。
それからのあなたは精神的にも落ち着き、母と少しずつ和解することができ、私が卒業して就職で遠くにいくことで兄からも完全に離れることができました。
就職先では昔気質な先輩がOJTとなり、精一杯やっていきますが怒鳴り声に萎縮する毎日となります。
そのうち人の話し声や足音さえもが怖くなり、上司の心配する声にも「大丈夫です」の一点張りで逃げるようになります。
一人暮らしのアパートではただ無気力で、お茶を飲むだけして数日過ごしたりもします。
それから学生時代の友人のアドバイスもあり心療内科に行きますが、うまく自分のことを説明できず先生からは苦笑いで気休めの安定剤だけを渡され、すぐに病院には行かなくなります。
しかしあなたはそのうちある日突然納得します。
何に、言われると返事に窮してしまいますが、とにかくある日、かっちりと何かがハマったような感覚になり、それから昔気質な先輩とも普通に話せるようになります。
食べることに関してもそこそこに食べるようになり、あまりこれまでしてこなかった料理にも挑戦したりします。
掃除や洗濯もある程度まともにできるようになります。
今は職場の他の先輩方とも話せるようになり、今度また別のチームへと移ることになりましたが不安や心配は以前よりなくなっています。
前より任される仕事の量や責任の重大さが増してきていて多少の心労はありますが、なんとかやっていけています。
そしてあの『彼』とは、現在遠距離恋愛三年目。
今月半ばにある、私が告白したあのお祭りでまた会う予定です。
四年間いろいろあります。
書ききれなかったものも含めて本当にたくさんのことがあります。
それでも私は生きています。
自分でどうにかしたり他人に背中を押されたり支えてもらったり、様々な方法で様々なものを乗り越えたりくぐったりしています。
たくさん楽しいこともあります。つらいことももちろんあります。
でも少なくとも四年後にもあなたは生きています。
あなたのつけたたくさんの傷も、痕になってしまいましたが恨んでなんかいません。
私が今あなたに戻ってもきっと同じことをするだろうから。
あなたが心の中で追ってくる何かから逃げられる道の一つだったから。
もしかしたらあなたは切羽詰まっているから、こんなところまで読まないかもしれないけれど(笑)。
大丈夫、あなたは生きられるよ。
生きたいだけ生きていいよ。
四年後の私より