君はもういないと
君はもう飛び立ったのだと
僕の腕の中からするりと抜けて溶けて消えてしまった君へ
美しい君に恋をした
夏の似合う人だった
君が僕を見つけて
僕が君に気付いた
愛していました
なにもかもを放りだして君の横へと必死に惨めに縋るように走った
なにも見えていなかった
君しか見えていなかった
春になると僕は物事に追われ
それを君に零してしまった
君は向日葵のような笑みで解ったと頷けば、僕の前から少しずつ、少しずつ、ずれて薄れて滲んで溶けていった
君が見えなくなった
まだ体温は感じていた、憶えていた、忘れられなかった
愛していました
誰よりも何よりもと比べる必要などない程に
君が消えた
僕は影を探して探して探して
とうとう見つけられなかった
ああ僕は失愛したのだと
今はただの恋なのだと
そう笑って立ち去った
君の事を全部詰め込んだ部屋
壊せるはずもなく
鍵をかけて
その鍵は胸ポケットにしまい
笑って立ち去った
内側からノックの音が聞こえる
誰だろう
君の部屋なのに
君はもう居ないのに
僕は振り返ってしまった
僕は鍵を開けてしまった
向日葵のような君がいた
美しい雫を垂らし微笑む君が
失ってしまったのに
もう君はいないのに
僕の中に君はいないのに
記憶は美化される
その上でもなお君は美しい
愛していました
君を想う時だけは僕も花になれたような気がしていた
君に触れる時だけは僕も隣で咲けたような気がしていた
僕はもう君の傍に立つ資格はない、今の汚い此処が似合うと思う、もう何度君の知らないところで何度君の知らない顔を見せただろう
愛していました
これは不変に永遠に
僕が最初に愛した人へ