時間を掴まえることができなくてかなしい。
あんなに大切だと思っていた時間は、知らぬまに指の間からするりするりと流れ落ちてしまったのだ。
時間を無為に過ごしているつもりはないが、どうしようもなく時間は足早に過ぎて行く。
かつては茫漠とした時間が横たわっているように見えた将来も、今やその渦中へと向かっているのだという実感が増すばかりである。
少女は自分が何者であるかも分からないうちに腐り落ちてしまう。(川の流れのほとり/恩田陸)
これはまた多くの若者に言えるのではないか。
自分が何者であるか、何を為すのか理解できないまま価値ある時間は腐り、ある日突然社会へと放り出されるのである。
その日までに、全身全霊で考えねばならぬと思う。
自分が何者であるか、何を為すのか。
大学生という自由な時を最大限利用して、できる限りの知識に触れ、時には1つの分野を掘り下げ、考え続けねばならぬと思う。
ともするとこれから大学を卒業するまでの4年間では見つからないかもしれぬ。
しかし、考えることをあきらめてはならぬという意識だけはある。
考えるのをあきらめ、妥協した時。
それは私の人生において、創造的な時間が終わりを告げる時である。
その後はただ漫然と、忙しくとも充足せぬ時間がゆるゆると続くのみであろう。
時間だけが過ぎ去り、ふと自分の中には何も残ってはいないのだということに気が付いたときに絶望するのは恐ろしい。