それはとても残酷なこと
それはとても
とても残酷なこと
ああ天井は
天井の高さのまま
それ以上せり上がることもないまま
あしたもあさっても
眠るわたしのこの目の高さは
変わらないということか
その梁を突き破って
漆黒の銀河を駆け回る
二本のレールをシュンシュンと
未来と夢を乗せた蒸気機関車が
どこまでも
夢と希望を乗せたまま
終わりなき旅をするのが
青写真だったはずなのに
生まれた時点で
双六は上がりです、と、言われてしまうと
もうどうにもしようがないじゃないか
宝石のようになりたかった
そして
きれいなみずうみを眺めながら
玉座で微笑んでいたかった
わたしは数える
絶望をかみしめて
愛というものは
こんなに
平易でさりげなく
近くにあったのかと
夢のような夢
やさしさのようなやさしさを
ハンマーで叩き割って
出て来たものを見つめてみた
そのかけらは
それ以上でもなければ
それ以下でもない
等倍のかたちをしていた
それ以上でも
それ以下でもなく
等倍の輝きを放っていた
わたしはその手をとって
ダンスをする
壁の花に仕立て上げた
その手を取り
踊りに出かけた
痛々しく笑うそのひとは
安堵の表情に変わっていった
天井がその高さでなければ
生涯お目にかかれなかったもの
安心は
そんな
ダサい場所に
いつもちゃんと
立っている
ななしさん
それはとても残酷な事、
それはとてもとても残酷な事。
自由を求めるために旅立ことにした。
見上げた天井の染みや高さに、飽き飽きしていたはずだ。
でも、今日は何故か申し訳ない気持ちになるんだ。
人波に流され駅に着いた。
ふっと、背中を押す幾つもの手を感じ、押された先の列車に乗り込んだ。
行く先の分からない列車。
乗客は誰もが、引きちぎられた思い出という鎖を引き摺り、折り畳まれた時間を鞄に詰め込んで、鋭く研ぎ澄まされた赤い右眼と、不安に絡めとられた臆病な青い左眼を持ち、相転移した覚悟を持って。
どの駅で降りるのか自分は知らないが、車掌が教えてくれるから乗り過ごす事は無いんだ。
でも、それが怖いんだ。
駅が来る度に鼓動が高くなる。
「貴方は次の駅です。」車掌に言われた。
次の駅までの間で気付いた。
始発駅で僕の背中を押してくれた人。
「行け、振り返るな。
御前が一人前になって、またここに帰って来た時、今は見えない俺達の流した血が、きっと見える様になっているはずだ。
その時、俺達は生きてはいないだろうが、俺達の屍を見たなら容赦なく踏み越えて行け、俺達の息子よ。」
あの天井の染みや高さが、懐かしくて泣いた。
格好良さに憧れている、格好悪さ。
自由という不自由さ。
そして、優しさという厳しさ。